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ベテラン情シスの知識・経験を会社としてどう継承すべき? ノウハウ継承の4つのアイディア

情シス
熱海 徹 氏
この記事の内容
1. ベテランのアドバイスにはタイミングも重要
2. ベテランが意識したい、3つの注意点
3. 聞きやすい環境作りが重要
4. ノウハウの共有にはマニュアルの更新作業が有効
5. ノウハウを継承することで属人化防止に役立てる
6. 会社が業務としてノウハウを継承するための4つのアイディア
7. まとめ〜「1人しか知らない特別な知識」から「自社の常識」に〜

1. ベテランのアドバイスにはタイミングも重要

カレンダーを見ると6月と12月には祝日がない。ただ12月は年末の休み(休暇)があるので6月は特別感がある。個人的には国民が一斉に休むというより、自分の意志で休みにする方が好きだ。梅雨の時期も相まって、どことなく憂鬱になりがちだ。洗濯物の乾きも悪いし、肌寒い日も多く体調管理が難しい。そんな月だからこそ、体と頭を休めるための休暇を取ってみてもよいのではないだろうか。

情シスにとっての最大の繁忙期は、出会いと別れの季節である「春」だが、6月になると若干落ち着いてくる場合が多い。新入社員は研修も終わり配属が決まる時期だ。しかし社員に配布されるPC機器やスマートフォンなどの設定や、運用対応の説明などで大変な時期は続く。IT機器を当たり前のように使える環境を支えているのは情シスであることを、すべての社内利用者は忘れてほしくないものだ。

前職(NHK)の経歴になるが、20代後半から40歳にかけては、情シス、番組制作、運用、管理部署の仕事がメインだった。50歳になると技術職場から情シス専属になり、国内ネットワークのセキュリティと運用管理を行い、海外支局のセキュリティ強化対策を重点的に行ってきた。20歳台の約6年間は、情シスで大型電算機(ACOS)を使って放送局から集まってくるデータ(トランザクション)のマスターDB更新を行っていた。ソフト開発にも携わったが主に運用の仕事をしていた。当時コンピューター室にはMT装置(磁気テープ装置)が横一列に並んでいて、メインとサブがあり壮大な風景だった。10数台のMT装置が一斉に動き始めると、まるでSF映画のシーンのように見えた。

今では想像できない風景だが、それが40年前の情シスの現場だった。ベテランは場数を踏んでいるので経験が豊かであるのは間違いない。だからと言って40年前の情シスの経験を話しても自慢話と歴史の話になってしまう。

今回のコラムで皆さんにお伝えしたいことは、情シスが「知識・経験をどう継承していくか」だ。「継承」が上手くいく方法を紹介したい。僕は今年の7月で65歳になる。主にセキュリティ対策を中心にアドバイザーとして現役で働いている。色々な経験をしていても、アドバイスの適切なタイミングがあると常に思っている。

2. ベテランが意識したい、3つの注意点

ベテランは、年齢を重ねると上から目線になってしまいがちだ。僕に当てはめてみても周りからそう見えているに違いない。自分が心がけていることは、困ったときなどに聞きやすい環境を作ることである。ノウハウの継承は、指導者から積極的に行うのではなく、話を聞いてもらえる環境を整えることが先なのである。その環境を整えることは自分が心得ることであり、周りに要求するものではない。主に注意したい項目は3つある。

  1. 自慢話をするのではなく失敗談を多く伝える
  2. 否定ではなく理解を優先させる
  3. 頑固な気持ちを捨て謙虚になり聞く耳を持つ

ベテランになる境界線は自分で決めるのではなく、仕事の積み重ねによって生まれるものである。高年齢になることが条件ではない。具体的には、職場内に課題が発生し、社員同士が検討している時、僕はすぐに解決策を提案することはしない。どんなにわかりやすい解説をしても、否定から入ってしまうからである。頑固さは必要だと思うが、③の項目を思い出して対応することにしている。ノウハウの継承は頼られるタイミングを逃してもダメだが、積極的に指導してもいけない難しい作業なのだ。

ベテランが意識したい、3つの注意点

3. 聞きやすい環境作りが重要

僕が30歳台の頃、先輩社員からのアドバイスを受ける場合、正直なところ、先輩なら誰でもいいと言うわけではなかった。自分なりに信頼できる先輩とそうでない先輩とで線引きをしていたような気がする。性格が合わないなどの「好き嫌い」があればノウハウの継承も難しいのではないかと思った。今はその逆の立場である。現在は、自分からは「でしゃばらず、謙虚な気持ちをもって接し、必要以上言わない」ことを守ってアドバイスしている。ベテランからのノウハウの継承は、伝えたいタイミングと社員からのニーズが重要なのではないだろうか。そのためにも何を聞かれてもいいように常にスタンバイしておくことが必要なのである。

前職の情シス勤務での出来事だが、大きな仕事が成功し、年間の業務内容で優秀だったとの評価で個人表彰されたことがあった。そして、ある社員がこんなことを言ってきた。「これは熱海さんだから成功したのであって他の人には無理です。」

その一方で、「この仕事は何に気付いてやり始めたのか、成功までの苦労や失敗はなかったか?」と聞いてきた社員がいた。詳細な説明は省略するが、後者の社員に対しては、色んなノウハウを教えてあげる結果につながった。

ノウハウの継承は、後者の社員のように、関心を持ってもらえるような先輩にならなければいけないのである。継承そのものが上手くいかない理由の1つにはベテランの行動に関係しているということを認識しなければならない。

継承を受ける社員側にもベテランから教わりたいことがたくさんあるのは事実であるが、ベテランだからこそかなり忙しく仕事をしているのも事実だ。ベテラン側でも自分自身のノウハウを分析し誰かに継承しようかと思案する余裕がなく目の前の業務が優先的になるのはわかるが、聞きやすい環境作りはベテラン側で行ってほしい。ノウハウの継承が後まわしにならないように業務の一環として考える理由がここにもある。

4. ノウハウの共有にはマニュアルの更新作業が有効

前職(NHK)で、技術現場の技術継承についての話になる。番組制作系の仕事で、カメラマン、音声技術、照明技術などの現場経験の先輩方からの技術ノウハウの継承方法について考えたことがあった。まずは専門的なノウハウについて知恵BOXのようなものを作り、先輩の方々にテーマを書いてもらった。そのテーマをもとに、図面を付けたり、写真を付けたりするなど、技術ハンドブックとして製本化することにした。時間はかかったが好評で、先輩の方々からも「改めて勉強できていい機会だった」とお褒めの言葉をもらったことを覚えている。

ノウハウの継承に有効な方法であるOJTは、先輩の手本を一旦見ることによって、先輩の動きを覚え、学ぶスピードも速いイメージで体験型の方法だが、失敗を繰り返しながら技術を磨いていくやり方は、現状の業務形態ではあまり許されないだろう。「多少の失敗」はNGだからである。

情シス時代、先輩から教わった研修で今でも覚えているのが「何か障害があった時に頼るのはシステムマニュアルを見ることと、その時に気が付いたら状況をメモする」というものだった。先輩が何度も言っていたことは「機器障害が起きる原因には、突発的に起きてしまうものもあれば、障害が重なって大きな障害につながるものもある」、「日誌は毎日読んで、システムメッセージは理解しておくように」という教えだった。

今でもマニュアルを読む習慣や、業務日誌を隅から隅まで読むことを大切にしている。業務日誌は、環境の異変に注目するとシステム障害の前兆に気が付くことがあると言っていた。例えば、サーバー室の温度、湿度はグラフにしておくと異変に気が付きやすいという。空調管理の仕事は情シスの担当ではないかもしれないが、システム機器は温度上昇に弱いため、FANの効き目を気にしなければならない。高温によるシステムダウンを未然に防ぐことを意識するようにというノウハウなのだ。

ノウハウの継承で難しいものは、ベテランが長年の間に培った経験と目利きではないだろうか。ある意味、長年の経験数からくる自信と、勘のようなもので表現しにくいからだ。先輩の中には、ヒーロー(匠)的なシステムエンジニアがいた。緊急対応の障害復旧では、どんなに知識があっても、中々手が動かないものだ。先輩は、正確で素早い対応だけでなく自信をもって対応ができるのだ。先輩が言うには「知識通りに操作しても失敗することがあり、手順というか、コツがある」とのこと。これが、経験からくる目利きや勘ではないだろうか。

ノウハウの継承をドキュメント化することは難しいが、先輩と一緒の場に数多くいることと、同じ現場の空気を吸うことで継承できると思っている。先輩がどこを見て何を気にしているか、特に作業の進め方について確認してほしい。

現在、コロナ感染の影響による制限はなくなってきたが、会社によってはテレワークが普及したままで、恒久的な業務スタイルになっている。相変わらずコミュニケーションが希薄になっているが、このような中でもノウハウを継承する難しさを感じている。ここは、ベテラン側からの積極的な声かけが必要なのかもしれない。

5. ノウハウを継承することで属人化防止に役立てる

ベテランだけがノウハウを持っている状況は、そのノウハウの量によっては業務が属人化する。これは業務体制にリスクを秘めているということだ。情シスに限った話ではないが、ベテランしか知らないことが多いと、何かあった時に多大な影響を及ぼしかねない。

実際にあった話だが、あるシステム運用(当時はロータスノーツ)を任されてきたため、あらゆるトラブルに関しての解決方法を熟知しており「休暇を取る日は不安だから事前に教えてほしい」と言っていた。これはリスク上の話ではなく「危険」レベルの話で、あってはならない体制だ。特定の担当者しか業務を行えない属人化状態=危機的状況と言える事態なのだ。この部分だけでもノウハウを継承し、いざという時に複数の担当者で対応できるよう共有化することが必要なのである。ベテランが持っているトラブルシューティングのノウハウは、自ら継承していくように促さなければいけない。ノウハウの継承は業務の1つとして捉える必要がある。

先に話をしたが、ノウハウの継承方法には、研修やOJT指導が有効的ではあるが、特別な教材とは別に、日常的に業務で活用されるマニュアルを利用し、ベテランを含め社員の知見が随時蓄積されるようにすれば、ベテランからのノウハウも吸収でき、習得が加速する。さらにノウハウを共有化し一元化させておけば新人が困った時でも、検索すれば情報を見つけることができ、効率化が図られるようになる。

6. 会社が業務としてノウハウを継承するための4つのアイディア

情シス部門のスキル向上を考えた場合、社員の努力に任せているだけでは即効性に欠けることがある。人材確保の実態は、外部より情報技術の教育を受けた者を経験枠として中途採用するなどの取り組みを行っている。しかし、IT 人材の募集をかけても思い通りに人材が集まらない。企業内ではIT技術者とセキュリティ技術者の取り合いをしているという話も聞く。特にセキュリティ人材は深刻のようだ。情シスの課題は、外部からの中途採用や特定の人材に依存することで人事が硬直化することである。会社にとってのデメリットは、情報技術の進歩に追随できず、社内の人材が扱える技術の範囲まででシステムの進歩が止まってしまうことである。会社としては優秀な人材を投入しても投資対効果の低下につながるようではいけない。

情シスの知識を属人的に解決していくのではなく、組織としての資産として「知識」を保持することを意識しなければならない。会社の代表する「知識」という資産を守っていくためには、ベテランのノウハウを継承する取り組みを行うべきである。会社としてノウハウの継承を業務の一環として考えるべきである。そのための4つのアイディアを、ここで紹介しよう。

<ノウハウ継承のための4つのアイディア>
  1. ベテラン社員にノウハウを継承する意識を持ってもらい、組織としてもノウハウ継承を推進する姿勢を打ち出す。
  2. 管理職も含め、今までに経験してきた中で継承したいテーマを集めた情報共有DBを作る。
  3. 対象者については、勤続年数や、同部署に10年勤務など、ある程度ベテランの定義を決めておくとよい。ベテランの基準を決めておくと、人が入れ替わったとしても長続きする。
  4. 業務の一環でノウハウ継承の課題に取り組むことにする。ベテランが非常に多忙であっても、優先的に時間を作れるように支援する仕組みを考える。

前職の情シスでは、ナレッジツールとしてロータスノーツを使っていた。ベテランが持つナレッジを蓄積し、共有化をサポートすることもできた。現在のツールについては選択肢が多くなっている。例えば、マニュアル作成ツールや社内Wiki、文書管理システム、エンタープライズサーチなどがある。複数人で文書を同時編集できるものや、ページを閲覧した人や閲覧時間を確認できるものなどがある。

7. まとめ〜「1人しか知らない特別な知識」から「自社の常識」に〜

ノウハウの継承はベテランの自発的な行動に任せていては難しく、業務の一環として仕組みを整えノウハウを一元化していくことが大事だ。ベテランのノウハウを継承する目的は、「1人しか知らない特別な知識」を「自社の常識」として展開し、全員の業務知識の底上げにつなげることだ。システム障害の復旧作業時のノウハウでは、目先のことだけを見て原因を追究しがちだが、経験のあるベテランは、状況を俯瞰的に見ているので、どこにポイントを置くべきかのノウハウについて担当者全員で共有化すべきと考える。

ノウハウの継承というものは、一度完遂したら終わりではない。代々受け継いでいく秘伝のタレのようなもので、たとえ新人でもその職場で働き始めたらノウハウの「継承」について意識し準備を始めてもいいのかもしれない。僕は、日々ノウハウについて継承できるように、でしゃばらず、謙虚な気持ちを忘れずコラムを通して皆さんにお話しをしていきたい。皆さんに感謝の気持ちでいっぱいだ。

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熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

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