情シスが抱えるITインフラやネットワーク、セキュリティの悩みを解決するメディアサイト情シスが抱える悩みを解決するメディアサイト

忙しい情シスが正しく評価を受ける業務目標の立て方とは?

情シス
熱海 徹 氏
この記事の内容
1. 「目標」の評価には実行過程も重要
2. 目標のゴールは1つに絞ってはいけない
3. 目標は経営方針の課題とマッチングしているかがカギ
4. 目標の達成には過程目標を設定することが重要
5. 計画の具体性を持たせる方法について
6. まとめ

1. 「目標」の評価には実行過程も重要

年度末は、1年で最もと言ってもいいほど様々な動きがあり、人事異動を含めて新体制が始まる準備をする企業が多い。とにかく、やらなければならないことが無限にあるように感じられる。新年度が訪れたら何から手をつけたらいいのか迷うのも今頃だ。既に新年度に向けた個人目標や経営計画は決まっていると思うが、これから立てようとしている方にはぜひ読んでほしい。

情シスは、改善したい目標項目が多い職場だ。ただ、それを実現するまでの時間が読めない。理由は周りに依存する結果が多く難しいからだ。今日のコラムは、目標は結果だけが全てではなく、実行している過程の内容が評価の対象になり、重要であることを紹介したい。どのような過程目標を作ればいいのか、経験談を含めて成功事例を紹介したい。

2. 目標のゴールは1つに絞ってはいけない

前職(NHK)では、年間総括(自己採点)時期と、次年度に向けた目標設定が一緒になり1月から2月の時期に行っていた。目標の良し悪しは、期限内にどれだけ実現できたかが評価の対象だ。情シスでは管理職だったので、自分の目標設定と社員の目標を見る側の立場だった。結果で一番大切なことは自己判断で「できた」ということではなく、目標に掲げたものが具体的に数値化されていて、それをクリアしたか、という内容だ。それとは反対に、悪い例を言うと個人の総評で「一生懸命頑張った」、「とても勉強になった」などのコメントは評価としては難しい。「どれくらい」をいくら主観的な分量で説明しても説得力に欠けるからであり、やはり数値化するなど客観的に説明することが求められるのだ。

情シスにはプロジェクトを数年規模で担当している社員もいる。目標はプロジェクト業務が完遂し、成功に終わることだ。しかし、中には作業途中で要員(リソース)の変更が生じたり、ベンダーからの工数見直し通知があり納期遅延が発生する。何回か経験したことだが、悲しいことに目標総括には理由が書きづらく期限内に終わらないことは、途中がよくても結果としてはNGなのだ。改善策は目標を1つに絞るのではなく、できるだけ作業の節目で大切な仕事は過程目標を立て、そこでの評価を見てもらえるようにすればいいのである。

プロジェクト作業は、システム開発における関連部署やユーザが安全に運用できるためのテストなどは周囲の協力が必要になる。色々な部署を巻き込むことになるので、他の部署から情シス職場の魅力を紹介できるチャンスでもある。僕の場合、このように周囲を巻き込んで達成していく事項を探し、それを過程目標にした。例えば、新システムの運用前にIT勉強会を開催したり、運用試験に協力できる社員を募ったりして、情シス体験をしてもらうことで次期異動の希望を出してもらえるように、情シスが魅力的だと感じてもらえるような内容を目標にしていた。

管理者の立場として感じた例を紹介しよう。社員のAさんが「国家試験(情報セキュリティ関係)を年内中に受験し合格する」というようなケースだ。合格を目標にした場合、不合格は目標未達成になってしまう。チャレンジすることは本人と会社にとってのメリットが大きい。資格取得に臨んでくれるので目標設定の内容としては反対しないが、チャレンジだけの目標ではなく、職場を巻き込んだ内容と、具体的な数値が必要である。

僕が書くとしたら、「情シス内の情報セキュリティスキルバランスを調査し可視化する。現状の専門性を確保するため、年内に実施される国家試験を受験する。職場内の受験希望者を集めて勉強会を開催するなど効果的な学習を行い、最低2名の合格者を今年度に出す」になる。

合格した後の会社への貢献は、この時点では書けない。重要なのは具体的な数値を出すことである。Aさんは職場のスキル調査を行い、勉強会を開催し、見事に複数の合格者を出すことができた。好事例の一つとして残されている。繰り返しになるが、目標を達成するためには必要な行動の計画(アクションプラン)を立てることと、組織が望むものと、自分がやりたい目標にズレがないかを考えることが重要だ。

3. 目標は経営方針の課題とマッチングしているかがカギ

前職(NHK)では、「放送事故を起こさず安定した放送を視聴者に届ける」という内容は、技術部にいた時に多かった。情シスでは「システム構成の多重化による運用の継続」の項目が多く、サイバー攻撃への対策では「全社員に対して情報セキュリティの勉強会を定期的に開催し、訓練を多く行うことで正しい初期対応ができるようにする」という内容を掲げていた。

知っておいてほしいのは経営方針に出ていた「信頼」という言葉であり、この言葉をそのまま使うのではなく、紐づく内容にすることだ。目標を達成することによって誰が幸せになり、喜んでくれるかを考え、目標の重みを感じて責任を持って臨むということが大切なのである。

会社が決めた経営方針に紐づける作業で気を付けたいことは、あまり手の込んだ作業にするのではなく、漠然でいいのでイメージをつかむことだ。次に、自分が情シスでやりたいことをリストアップするとよい。これもイメージでいいので、予算や数などの制限を気にすることなく提案し、書き留めておくことをおすすめしたい。

さらに、リストアップした内容と経営方針などに含まれるキーワードが一致するかのマッチング作業を行う。自分のやりたいこととキーワードのつなぎ合わせを行い、課題解決するための具体的な方法を考える作業に移る。この作業が目標設定になる。

ここからが大切で、実際にやるべきことを具体化するためにはどうしたらいいのかを考える作業が始まる。ここで目標に向けた作業が間違っていると、結果が遠ざかり失敗に終わる。一番気を付けていたのが、ロードマップ(全体像)の把握である。細かな調整は作業工程に落とし込んでから管理すればいい。あくまでも目標が経営指針とマッチしていることと、単年度計画で終わるのか、中長期計画になるのかなどを決める重要な工程になる。

4. 目標の達成には過程目標を設定することが重要

前職(NHK)での Active Directory 化整備を行っていた時の話になる。職場は放送局という特殊な職場のため、社員が常駐しておらず、整備が計画通りに進まなかったことを覚えている。個人の目標もその年度中にはA部署、B部署の Active Directory 化が完了となるが、期限までに間に合わないことが多く、初めから過程目標を設定していた。

目標のうち「何を」については、全て Active Directory 化することだ。ただ、勤務時間がばらばらで社員が職場に不在の時間が多い環境なため「どのようにして」Active Directory 化をしていくかがカギになる。過程目標はこの「どのようにして」を考えることだ。僕の場合、人事部と総務部を巻き込んで、社員の出勤日を計画的に決めて一斉に Active Directory 化を行った。この「どのように」に重点を置いた過程目標を設定することが有用である。

昨今ではテレワーク中の作業に置き換えてもいいだろう。OSのアップデート作業でも、出勤日を決めて達成率を上げていく過程目標を考えることが必要だ。

5. 計画の具体性を持たせる方法について

一般的に、目標設定はSMARTであるべきと言われている。SMARTとは、具体的(Specific)、測定可能(Measurable)、実現可能(Achievable)、関連性(Relevant)、そして、期限(Timebound)の頭文字をとったもの。さらに詳しく知りたい方はネットなどで調べてほしい。僕が一番気にしているのは、期限などの目標値であり「数値」である。もう少し、わかりやすく説明していく。

▶具体的(Specific) どのような状態になれば目標達成なのか? それを言葉にすることができるかを考えてみる。目標に関しては「誰が、何を、いつ、どこで、どうして」について具体的なことを書き出してみる。

▶測定可能(Measurable) 計画するうえで進捗を計測する方法について考える。例えば、計画を実行するためには予算からの経費が必要だが、費用対効果や、工数の見直しが随時行えるような体制を整える。

▶実現可能(Achievable) 実現するための要員が確保できているか、目標を実現するためのスキルの状態を把握しておくことなどは計画に盛り込まなければならない。現状のリソースが可能かどうかの見極めは大切になってくる。

▶関連性(Relevant) 目標が自分にとって望んで行うべき内容なのか、経営方針と一致しているキーワードにギャップがないかを調べなければならない。

▶期限(Timebound) 目標をいつまでに達成するか期限を決める。ただし、ぎりぎりにゴールを迎えても見直しが発生するため、余裕のある計画が必要になる。

計画の具体性を持たせる方法について

アイスブレーク

趣味のゴルフで、どうにかして上手くなりたい目標をもって臨んでいた。ゴルフ上達のためにノートを作り、書き留めていたことは、腕前が上がるための目標について自分に対する「問いかけ」方法である。

<問いかけ式 目標設定の例>
目標設定を単に「ゴルフがもっと上手くなる」というだけでは、どのくらいが「もっと」なのかがわからない。目標の設定で大切なことは中身を具体化することであり、その方法として自分に「問いかけ」をしてみた。
<問いかけ例>
  • ゴルフをすることによって、どうなりたいのか? 期待できるものは何か?
  • 年に何回ゴルフをすればいいか。
  • どういうゴルフをしたいか。
  • ゴルフに行った数と、内容について記録しているか。
  • 誰とゴルフをしたいのか。
  • どこまでできるようになりたいか。

回答を考えてみると長い文章にはなるが、目標を言葉で表してみるとこうなる。
「ゴルフを通して心身共に健康になり、上達(スコア)を意識することによって緊張感がうまれ、技術上達への意欲が沸きゴルフが増々好きになる。仲間を通して生涯スポーツとして健康な人生を歩み、大会などにチャレンジし、ゴルフ場に自分のスコアを残すなど、レベルアップを図っていきたい」

スコアを上げるためだけだったらゴルフスクールに通えば実現できそうだが定期的なコンペへの参加は難しい。僕が実現に向けて行ったことは、スクールには当然通ったが、ゴルフ会員権の取得を考え、1人(プレーは4名だが相手3名は初めてのプレーヤー)でもできるゴルフを実現した。現在はゴルフ場に電車1本で行けるし、ゴルフバッグはロッカーに預けているため手ぶらで通える環境だ。スコアは安定し、ハンディキャップの申請を行うなど上手くなる結果だけでなく、楽しいゴルフライフが継続できている。

6. まとめ

目標(ゴール)設定は、キャンバスに絵を描くことに似ていて、達成すべきターゲットを定め、期待する結果を考えることが必要である。下書きのないキャンバスにいきなり絵具を置くのは勇気が必要だし、まずもって失敗する。下書きが必要なことと、キャンバスの大きさと描きたい内容の大きさの対比が問題になる。バランスの問題である。下書きは何度も書き直せる。でき上がりだけを気にするのではなく、絵具で描いていく下地(順番)が大切な作業だ。目標(ゴール)設定とは、ある物事やアクションを実施する上で、どんな結果を期待しているかをあらかじめ定める作業なのかもしれない。優先順位をつけて、一歩一歩着実に進めていくことが重要だ。

<< 関連コラムはこちら >>

■サイバー事故を防ぐセキュリティ研修のコツとは? 現場を巻き込むひと工夫が決め手!

■情シスを悩ませるルールの違反や形骸化…「記憶」から「記録」で動く組織へ

■情シスは生成AIツールをどう使うべき? 失敗談から考えるビジネスへの活用法

■プレゼン資料作成スキルを上げる! 情シスの話が伝わる構成力を身につける方法

■情シスが他業務と兼務するリスクとその対策

■情シスに伝えたい!IT専門用語をわかりやすく説明するには?

■気をつけたいシャドーIT! 情シスは「危険性の周知」と「管理の強化」を進めよう

■情シス不足解消策は採用のみにあらず! 組織内からできること

■「仕事を断るのが苦手」な情シスに伝えたい3つの対処法

■ITシステムを守る「サイバーBCP」で情シスがすべき4つの対策

■情シスはDXを考えていく上で、一体、何をすればいいのか?

■長期化したテレワークで気が付いたメリットとデメリット

■情シスのプロジェクトマネジメント成功術

■情シスを悩ませるルールの違反や形骸化…「記憶」から「記録」で動く組織へ

■情シスの人材確保は難しい…増大する業務負荷を乗り越えるヒント

■リスク事例で読む、情シスにしかできないITのリスクマネジメント

■Withコロナで気がついた、テレワークの継続を前提とした将来の情報システム運用

■情シスに求められるスキル! 聞き手が耳を傾けるプレゼン力を身につける方法

■アフターコロナの時代は情シスの大きな転機になる~チャンスを生かし、今すぐ実践できること~

■「ソロ情シス」だからできるDXの進め方

■会話のキャッチボールから人脈作りは始まる

■システム障害時、パニックから抜けすためには?

■これからの情シス部門に求められる「あるべき姿」とは?

■目標設定と成功するためのタイムマネジメント「時間管理」について

■2022年を迎え、改めて情シスとDXについて考える

■2021年の振り返りと2022年の展望

■業務引き継ぎは、未来から逆算して臨む

■システム障害は、「気の流れ」が変わった時に発生しているのではないか

■情シス部門の必須知識! 経営層の理解を得て予算を獲得する方法

■デジタル変革(DX)に求められる人材はなぜ確保できないのか?

■テレワークにおける重要課題「気軽な雑談」方法とは?

■嫌われる「情シス」と「ベンダー」の共通点とその改善策

■テレワークによるコミュニケーション不足解消と、メンタルヘルスケア

■組織で挑む、ヒューマンエラー抑止(全2話)

■情シス業務の醍醐味(全3話)

■有事に備えよ!(全3話)

熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

関連キーワード