1. 「わかりにくい」「まるで呪文」と言われるIT専門用語
9月は夏と秋の境目の季節だ。冬になるまでの秋は、比較的過ごしやすい日が続く。過ごしやすい時期に、僕は外国語(ヘブライ語)を習得したいと思っている。実は参考書は何冊かそろえたが、進まない理由を暑さのせいにしている(笑)。目的は会社の同僚がテルアビブにいるため、会いに行ってびっくりさせたいからだ。いまだに外国語を習得するには集中するとできるようになる気がしている。
今回のコラムでは、情シス内でいつも使っているIT専門用語を、わかりやすく説明するにはどうしたらいいかを考えてみたい。周囲からは、「わかりづらい」、「まるで呪文のようだ」など、苦情とまではいかないが、「どうにかしてほしい」という要望を何度も聞いている。特に、横文字やカタカナ語が多く出てくると何を話しているのか理解できないという声が多い。僕の説明の仕方について事例を交えて解説する。
2. 身近にある「わかりにくい」カタカナ語から考える
「わかりにくい」という声が上がった専門用語は意外に多い。オーバーシュート、クラスター、ロックダウン…。新型コロナウイルスの影響が広がるにつれ、聞き慣れないカタカナの専門用語が増えてきたことは記憶に新しい。
この例のように、専門家の使うカタカナ語を日本語で正確に言い換える言葉が見つからないなどの理由もあったのかもしれないが、日本では様々な環境であえて日本語に変換していないカタカナ用語がある。これが専門用語を周囲に理解してもらうことを難しくしている理由の1つであり、「わかりにくい」という問題点を含んでいる。ほかにも、カタカナ語の使い方についての事例を紹介してみよう。
- 【スーツを購入する時】
- 百貨店のスーツ売り場で、スタッフさんに「○○○はどうします?」とか「×××の方がいいですか?」と聞かれて「はい、そうですね」と、質問の意味がわからないのに答えてしまったことはないだろうか。例えば、スーツ用語では「カラー」とは、色のことではなく上襟のことで、ジャケットの首にあたる襟部分を指す。さらに「ラペル」という言い方で下襟を指す。ラペル幅は細いほどモダンで若々しく、太いと貫禄のある大人っぽいイメージになるのだが、専門用語がわからずイメージで何となく会話をしているのが普通かもしれない。もちろん、店員さんも必要以上に専門用語は使ってこない。
- 【車の説明】
- 車の前後についていて衝突からボディを守る部品の名称は「バンパー」、タイヤの周りは「フェンダー」と呼び、そして乗り降りする「ドア」がある。それぞれ名称に場所の名前をつけて、「フロントバンパー」「リアバンパー」、「右フロントフェンダー」「右フロントドアー」と呼ぶ。エンジンルームの上のカバーの名称は正式には「ボンネットカバー」と呼ばれているが、通常は「ボンネット」と略される。これらは何となく理解できるが、カタカナ語だけを並べると、どうだろうか。
- ボディには「バンパー」「フェンダー」「ドア」があり、「フロントバンパー」「リアバンパー」、「右フロントフェンダー」「右フロントドアー」と呼ぶ。「ボンネットカバー」は「ボンネット」と略される――こうなると、まるで呪文のように聞こえるかもしれない。
IT専門用語での説明も、この現象が起きているのかもしれない。要は話の前後の意味がわからないと、どんなに文脈を見ても想像すらできないのではないだろうか。
3. なぜITエンジニアは横文字が好きなのか?
本題に入ろう。業界的に横文字やカタカナ語の登場頻度が多い理由とは何だろうか。例えば、「IPアドレス」の概要をWikipediaでは次のように記載している。
IPアドレスは、IPでネットワーク上の機器を識別するために指定するネットワーク層における識別用の番号である。データリンク層のMACアドレスを物理アドレスというのに対応して、論理アドレスとも呼ばれる。IPには、IPv4とIPv6とがあり、使用するプロトコルの違いにより、IPv4のIPアドレスとIPv6のIPアドレスとがある。
僕の場合だが、何か図のようなものがあれば理解は深まると思っているが、口頭で聞く場合、社内の多くの人は何を言っているかわからないと思う。まさにIT専門用語は、複雑怪奇なものなのかもしれない。カタカナ語は元が英語で、IT関連で出てくる英語はほぼ専門用語。これらはすべて同じ物を指すと解釈し、それを表現する言葉として「横文字」を使っている。
コンピュータの元祖が日本であれば、専門用語も日本語だったかもしれない。事実は英語圏のエンジニアからの流れになっているため専門用語はすべて横文字である。コンピュータを計算機と言う人がどれだけいるか、調べても意味がないのである。
個人的な感想だが、情シスは「わからない言葉が出てきたら自分で調べろ」の精神が強いと思う。悪い意味ではなく、人から聞いても中々覚えられないものは自分から進んで覚えないと自分が困るという意味だ。僕が新人の頃、噛み砕いた説明をしてくれない先輩がなぜか多かった。情シスでのスキルの高め方として、日々の勉強はもちろん重要だが、常にわからないことを調べる習慣が必要ということである。その精神は今でも役に立っている。
4. なぜ、IT専門用語はわかりづらいのか
例えば「スクリプト、モジュール、プロキシ、API、DNS、Cookie、マイグレーション」などと、「パソコン、マウス」などを比べた場合、前者は物体として存在しないもので、後者は見て触れるものである。形がない概念やデータみたいなものは中々頭に入ってこないことがわかる。自分のことだが、前者について正確に説明できるかというと、何となく知っている程度で、細かいところはインターネットで調べればいいと思っている。
最近のことだが、「『サーバ』が自社のどこの部分を言っているのかわからない」という声を聞くことが多い。改めて解説すると、クライアントに対してのサーバという概念だったり、WEBサーバとかDBサーバとかPC内に入っているソフトウェア自体のことを指しているが、各社にとって何を指しているのか、会話をする場合には特定できる場所の説明も必要であることがわかる。IT専門用語のカタカナ語では一般名称で話をしても、自分の会社のどこを指しているのかなどの解釈ができていない原因もあることがわかった。
5. IT専門用語をわかりやすく説明するにはどうすべきか
会社経営者の方とサイバーセキュリティについて話す機会があった。その方からSOC(「ソック」と読む)について質問があった。SOCとは、「Security Operation Center(セキュリティ・オペレーション・センター)」の略であり、情シスへの脅威の監視や分析などを行う役割や専門組織を指しているが、このSOCを「エスオーシー」と言ってきた。ソックと呼ぼうがエスオーシーと呼ぼうが、本来はどちらでもいいが、その方が呼び方を間違っていたことを気にするあまり「やっぱり苦手なんだよねー」と言ってきた。カタカナ語の呼び方が問題ではないことを丁寧に説明し、自分との距離感を縮めることが必要なのかもしれないと思った。経営者との会話は、セキュリティ事故が発生した時の緊急時の対応についてである。
まずは、PCで毎日何をしているかを聞き、ニュースや天気予報を見ていることがわかった。PCは、テレビやラジオとは違っていることはわかっていた。スマホについても、通信キャリアとの契約でメールなどができていることも知っていた。ここではPCでの閲覧にはインターネット回線が必要で、それを毎日使っていることを理解してもらえた。
次に、PCがマルウェアに感染する説明だが、インフルエンザに例えて説明した。インフルエンザが世間を騒がせているように、サイバーの世界でも同じようにランサムウェアが世間を騒がせている。ランサムウェアがインフルエンザのように悪いウイルスによるものであることを理解してもらえた。
次に、インフルエンザに感染しないためには何をするかというと、マスク、手洗いなどである。サイバーの世界でも、PCにマスクのようなソフトを入れ予防をしている。しかし、予防していてもインフルエンザに感染した場合には病院での治療を受けることになる。
PCでも、予防していてもマルウェアに感染すれば発病する可能性があり、その場合には感染したPCをネットワークから切り離し、専門家に見てもらう。そしてマルウェアの駆除作業や再発防止策を考える…と、順に説明していく。何となくではあるが、かなり距離が縮まった瞬間である。その後の対策については「そこまではわかった。だったら何をすればいいのか?」と多くの方が聞きたくなってくる。ここが一番大切なポイントで、優先的に行うべき対策について簡単に説明することである。
まずは、何も起きていない平時に、緊急時の初動と、連絡体制、お付き合いしているベンダの連絡先(担当者名)、自社のIT構成などの準備をしておくことを説明する。これは、病気にかかる前に常備薬の準備と、かかりつけ病院だけでなく、休日深夜の緊急病院の電話番号などを調べておくことが必要であることを同時に説明する。さらに、連絡ルート訓練を定期的にしておけば、備えとコミュニケーションが生まれることを説明した。
経営者の方は、IT専門用語を知ろうともしなかったが、「少しずつでもメモを取ってインターネットで調べてみると、話についていけるようになった」との声をいただいた。レアなケースかもしれないが、このような対応を繰り返して行うことが必要なのかもしれない。
まとめ
今回は、情シス内でいつも使っているIT専門用語を、わかりやすく説明する方法について考えた。
「わかりにくい」「まるで呪文」と言われるIT用語であっても、今回の事例を参考に、相手が理解しやすいように文脈を補足したり、わかりやすいたとえ話を用いることも一案だろう。「ITの世界が苦手」イコール「ITは難しい」となってしまう前に、対応をぜひ工夫してみてほしい。
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■著者紹介■
熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住
40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。