ビジネスをしている情シスとは?
IT が道具である、または本業を支援する手段というのはかなり昔の話に聞こえる。現代は、IT が本業であり、人間が IT で本業を革新する立場にいるのである。別の言い方をすれば、IT 活用は、かつて事業のコスト削減を目的としたミッションであったが、現代は利益拡大や、企業のコアコンピタンスを実現する存在に変わったと言える。
情シスの仕事は、多種多様にわたる業務範囲を持っている。ステークホルダーを考えたとき、情シスの業務の先に誰がいるか想像したことはあるだろうか。例えば、経営層に向けた業務であれば、経営方針の実現のために代表取締役がいるが、その先に「株主」がいることを想像して欲しい。また、様々な職員、経理や営業といった部門の業務効率化、新規事業支援等を行う際も、その先には大切な「顧客」がいることを想像して欲しい。このように社内の範囲だけではなく、その先を想像する「ビジネスをしている情シス」ことが、「攻めの情シス」であると思う。
情シスは周りからどう見られているか?
僕が情シスを担当していた時はあまり気にしなかったが、情シスは周りからこう見えているらしい。
- いつも難しい言葉で話している人たち(日本語に直せないので仕方ない)
- 何をやっているのか、わからない人たち(説明するのが面倒)
- 融通が全く利かない人たち(会話が下手)
- なにかと流行りに乗らせてくれない(好きなパソコンメーカーに変更して欲しい)
- 利用部門のビジネスに寄り添ってくれない(公平な立場を守らなければならない)
- 何かあると「ルールですので」と言ってきて運用に対して厳しいところ
全て僕の経験談だが、残念ながら数十年たった現在でも思い当たるところはある。
情シスの仕事は、職員だけの対応だけでなく、ベンダー(業者)との関係もある。そのため、職員に「好かれる」、「嫌われている」といった関係になりがちであり、情シスの業務の難しさを物語っている。
情シスからすると「頑張っているけど、感謝されにくい、褒めてもらえない」、「皆さんが守ってくれないと、僕たちが怒られます」という星の下にいるのかもしれない…など、結構ネガティブだった自分がいたりする。
情シスは、他の業務と兼務している実態
情シスには業務形態によって異なってくるが、ひとりの情シス、複数情シス、兼任情シスという大きく3つのタイプがある。もちろん、会社の規模に関係してくるが、大企業ともなると情報システム部となったりするので、こちらを加えると大きく4つのタイプかもしれない。
ひとりの情シスの特徴は、他の業務と兼務の割合が多いのではないだろうか。そもそも、別の業務を担当していたが、「PC に詳しい」とか、「理系出身だから」という理由で任命されることが多い。僕もその一人だった。実は、この担当者は他の業務と兼務ということもあって、「情シス」という意識をあまり持ってないところに、企業内で情シス業務が発展しない要因のひとつになっている。
致命的な問題は、情シスが業務の実態を把握せず、日々の運用を続けているところにある。ひとりの情シスは、パソコンに詳しい人であって、「経営感覚を持て!」と言われても、本業でなければ課題が大きすぎるのではないだろうか。しかし、IT 担当者は業務の実態をもっと把握すべきである。昨今の IT システム環境においては、従来の IT 担当者から、経営感覚を持ち合せた IT 担当者として生まれ変わることが求められているのも理解できる。
一方、多くの情シスは、社内の既存 IT インフラやシステムを保守・運用することで手一杯な人が多く、「新しいことに取り組む時間がない」というのが業務実態を把握できない一番の原因ではないだろうか。
仕事ができるようになったきっかけ
ひとりで情シスを任されていたころ、技術部門の IT の全てを管理しており、業務に追われる日々を送っていた。しかし、その環境にはシステムを作った前任担当者がいたため、ひとりの情シスではあるが、何も知らなくてもよく、何も気にせず過ごしていた。しかし、定期異動の時、前任者が転勤することになり、正式に引き継ぐとなったが、構築ドキュメントや操作マニュアル、ルール等が文書化されておらず、システムがブラックボックス化していたため、業務に支障をきたすことになってしまった。
ここからである。何も残っていないシステムを手探りで解析し、全容を明らかにしたことを覚えている。僕としては、このきっかけでバラバラだった利用環境を標準化し、管理工数の見直しを行いコスト削減の効果を出すなど、情シスの仕事の楽しさを肌で感じた瞬間があった。思わぬ責任者の後退から、標準技術を用いたシステムに刷新が実現したのだった。このように自ら動くことによって苦労はしたが、今まで味わったことのない達成感が生まれ、自分の存在感を「じわー」っと、感じることができたことを鮮明に記憶している。なんともいい感じだった。
ぜひ、皆様にもこのような達成感を味わってもらいたい。
情シスで働いていると、システムは人についてまわると感じている。まさに生き物のように思える。運の悪い担当者は、同じ障害を何度も経験している。気の毒だが本人のせいではなさそうだ。不思議な世界かもしれない。機械室を見るとよく神社のお札がある。僕の場合も同じことをしていたが、神頼みの世界は確実に残っている。
<< 関連コラムはこちら >>
■情シス業務の醍醐味(全3話)
■有事に備えよ!(全3話)
■著者紹介■
熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住
40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。