ヘルプデスクは常に1対nの関係
テレワークが進む中、チャット機能が便利になったせいか、問い合わせも多くなっていないだろうか。職員からしてみたら1対1の関係で問い合わせをしてくるが、ヘルプデスクは常に1対nの関係にある。同時にたくさん問い合わせが来る時は、近くにあるホワイトボードに正の字を書きたくなる気分だ! 実際には書かないが、心の中で「またあの人からだ!」とつぶやいている。どうしてなのかわからないが「苦手だ!」。
ベテランともなると、ヘルプデスクの業務が多い時を予測できるようになる。システム更新された日、新しいパソコンに変わった日、テレワークが始まった日、の翌日などがジャストミートである。本当は、職員が周知文などをしっかり読めばわかるものが多いのだが、時々、原因が全くわからないものが来る時があり、どうしたらよいか返事に困る場合がある。そんな時は、冷静に「どのような操作をしましたか?」と聞くが、「いつもの通り」との回答。相手は新しい PC に交換して欲しいに違いない。でも予備機がない。どうしたらいいんだ! こういう問い合わせのやり取りに時間が結構かかるのである。サポート全体の業務に影響してくる訳である。しかし、これらの問題は到底一人では解決できない。業務全体を見ている上司の理解がなければ、改善の糸口を見つけることは難しいのが現実である。
情シスって「パソコンにすごく詳しい人」でいいのです
情シスの仕事は決して運用サポートがメインではないが、社内に存在する「パソコンにすごく詳しい人」を作ってしまう構図ではないだろうか。実は僕も、情シスの仕事に関わり始めた当初は、「パソコンに詳しい職員」であった。パソコンに詳しい人は、情シスには当然必要と思うが、コピーの紙が詰まった時に解決してくれる「何でも屋さん」のように扱われることはないだろうか。レイアウト変更で、パソコンの電源はどうしたらいいか、などの問い合わせには正直、「自分でやれよ!」って言いたい気分だ。
一方、「パソコンにすごく詳しい人」にはいい面もある。僕が情シスで一番思い出に残っているのは、今から20年前の話になる。ロータスのグループウェアを運用するためにサーバの設置から運用までを一人で対応していた。同時にファイルサーバの構築を行ったりしていたので、運用面では職場の便利屋さんになり、裏ではシステム技術の勉強がたっぷりできたことを覚えている。
このように、日常運用のサポートをすることだけでなく IT 技術に関する勉強や、業務を改善するためのシステムの企画・構築を行い、情シスにしか味わえないシステムの面白さがわかったり、会社全体の職員との会話が可能になったりすることで、コミュニケーション力に磨きがかかるなど、「パソコンにすごく詳しい人」にはたくさんのおまけがついてくるのである。
僕は、情シスの仕事が大好きな人間に育ったのである。
できないものは「ノー」と言えるヘルプデスク
それでは、ヘルプデスク業務の問題はどこにあるのか? ヘルプデスクの業務は単なる「御用聞き」ではないことを主張する必要がある。簡単にはいかないが、できないものは「ノー」と言えるヘルプデスクの役割を明確化することが大事だ。社員からは嫌われることはないと思うが、正直「嫌われた!」感はある。でも経験上、できないものはできないと断ることも必要かと思う。
例えばクレーム的な対応も多いが、まずは話を聞き、その後の対応については、思いつきで回答するのではなく、回答例を紙に書いておくなどテンプレート化して、それに当てはめるやり方がベストである。が、そううまくいかない。相手は、早く新しい PC にしてくれ! の気持ちでいっぱいだからだ。同じ職員同士だが、まるでパソコンを壊したのは情シスだと言わんばかりに言ってくる。勝手に思っているところは多いと思うが(あくまで、個人的な感想である)、少し辛くなる。しかしそこは冷静になり、解決方法について今できることを明確に知らせることが大事である。ここで大切なのが、できないものは「ノー」と言う決断だ。
できないことを素直に言い、関係を構築して信頼されることは情シスの仕事なのである。
業務を一旦終わらせることも、ヘルプデスクの多忙から逃れられる方法だ。
情シス本来の仕事は何か?
情シスは、会社の業務実態について誰よりも詳しく知っているはず。このような環境であるからこそ、情シスは効果的な手法を会社全体に提案し、自らの業務の見直しを行えばいいのである。情シスが目指す「攻めの IT 」は、ここから来ているのかもしれない。
ぜひ「頼りになる情シス」を目指して欲しい。そういう雰囲気を作れるのが情シスの仕事でもある。社員からも頼られているようになれば、既に社内のキーマンになっている。そこから、情シスしかできない仕事を提案し、改善を実行することで、周囲からの評価も変わってくるはず。本来の仕事に向けて取り組んでいくことができるはずである。
ヘルプデスクをしていると、なぜか忙しい時に限って電話の数が多く、すぐに解決できない事件が重なるものである。そんな時に僕の場合は、深呼吸をして仲間を集める。自分一人で解決するのではなく、状況を共有し計画的に対処するようにしていた。
具体的な対処については、これからのコラムで解説していきたい。
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■情シス業務の醍醐味(全3話)
■有事に備えよ!(全3話)
■著者紹介■
熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住
40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。