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デジタル変革(DX)に求められる人材はなぜ確保できないのか?

情シス
熱海 徹 氏
DX
この記事の内容
1.自分の希望しない職場でも、変化を認め、気持ちを切り替えれば結果が出る
2.情シスの現場は万年人材不足
3.人材の育成が困難
4.どうすれば、情シスの現場は変わるのか
5.おわりに…人材確保について

1.自分の希望しない職場でも、変化を認め、気持ちを切り替えれば結果が出る

ニューノーマル時代に向けてデジタル変革(DX)の重要性が高まる中、自社に必要なIT人材をどう獲得して育成し、組織としてスキルを高めていくべきか。ニューノーマルを勝ち抜くデジタル変革に求められる人材・スキルとは何かを考える必要がある。とはいうものの、その推進に必要なIT人材の不足が指摘されているのも事実。

せっかく自分が希望した企業に入社しても、早い時期に離職してしまう新卒の新入社員は実は数多くいる。離職理由は「最初に会社から説明されていた仕事内容と、実際に行う仕事が全く異なっていた」、「家庭の事情でやむを得ず退職した」といった理由もあれば、仕事の進め方や人間関係に悩んで辞めた場合もある。職場でのフォローがあればもしかしたら離職を回避できたかもしれない。

僕の場合、前職NHKに40年近くいたため、人事異動で転職の気分を味わっていたのかもしれない。特に放送技術から情報システムに異動した時は、エンジニアから管理部門に移ったので、一旦会社が変わったのではないか、くらいの印象だった。

エンジニア時代に残した成績も、情シスでは役に立たず、ゼロからスタートしたことを覚えている。しかし、このゼロからスタートできたことは、ネガティブな状態ではなく、ポジティブな状態だったため、かなり早いスピードで結果を残せた。

この経験の積み重ねで、正直辛いところもあったが、決まったものをいつまでも引きずっていてはメリットがないことに気付かされた。自分は能力があると思っていても、周りの仕事は日常的な業務が多く、その業務すら覚えていないのに、「こんなことをやるためにいるんじゃない」精神があるのも事実で、常に自分の立場を職場より上に見ていた気がする。悔しい気持ちがそうさせているが、状況は改善していかない。その状態を続けている以上、何も実現できないことに気付かなければならないのである。決して開き直るということではないが、「変化を早く認める」ことが重要なのである。会社人(サラリーマン)として、いかに前向きな考え方を早く持てるかが、仕事を成功に導くカギであることと知る。

まとめると、自分が希望していない職場だろうが気持ちの入れ替えが早くできた時は、早い段階で結果が出せたということである。人事というものは、社員を駒として動かしていると思い常に反発精神があったものだが、人事関係者の言う通りに従うことも間違っていなかったと今となっては思えるのだ。

僕がNHKに入局してから、最初の転勤先が情シスであり、最後の職場が情シスとなった。最後の職場については自分の希望がかなったが、NHK全体の仕事を知り、大勢の仲間ができ、人脈も形成されてからの情シスの仕事は、入社当時とは全く違う世界だった。
情シスとは、単に知識を持つ集団ではなく、組織全体を見渡せる人間力も必要であることを実感したのである。

2.情シスの現場は万年人材不足

さて、昨今の人材不足について触れたいと思う。特に情シスの現場では、人材不足に悩まされている。なぜ、企業の情シスに人材が集まらないのか、経営陣が情シスに求めるDX戦略などの考え方に乖離がないのか、考えてみたい。

ニューノーマル時代に向けてDXの重要性を意識し、クラウドやAIを扱う人材やスキルの不足を感じている組織は多いのではないか。しかし、実際にどういう人を雇ったらよいのか、どう教育したらよいのかがわからない。DXのために業務部門と連携しなければならないが、どう進めたらよいかわからないし、組織をどう作ればよいかもわからない。そもそも人材を集める前に、会社がやるべき大きな問題があるかもしれない。

そのような状態で人材を確保しても、「入社してみたら違っていた」と言われても仕方がない。そこには、DXの推進に必要な技術として何を、どのくらいの人に学んでもらうかといった計画すら立てられないという事実があるからである。

一方、経営陣の中でもDXには情シスが重要だという理解は増えてきたが、情報システム部の現状を見れば、それはきわめて難しい。変化への希求と現状の課題、この板挟みになっていないだろうか。

情シスは「複雑すぎるシステム構成に対応できない」「復旧対応に追われる毎日」など、従来の体制やシステム基盤の整備・維持といったレガシー業務が足かせになっているのも事実。そんな中、「利益を出すIT戦略を提案せよ」と言われても、それに対応できる情シスはいないのだ。人材が足りないから採用すればよいかというと、そう簡単な問題ではない。

情シス業務の問題は、ただ単にシステム技術の知識があるかないかだけではなく、組織内でのIT活用が定常化するまでの対応も多くあり、DXといったカッコいい仕事だけではないことを知っておかなければならない。そういう意味では、決して目立たない、地味な仕事も情シスの仕事なのである。

さらに追い打ちをかけるのが高齢化。後継となるべき若手情シスが少ないのに、もうすぐリタイヤを迎えるベテラン情シスが多い。管理運用に関わる技術や知識の空洞化が懸念されている。基幹システムに分散配置された個別システムの連携や機能追加をし続けると、いつの間にかデータ経路がこんがらかったものになっている。トラブル発生時の原因把握はおろか、復旧にも恐ろしく時間と労力を強いられる。現行システムを理解するベテラン情シスがいなければどうにもこうにもならない状態ではないだろうか。

企業特有のルールのようなものがあり、ドキュメントすら存在しない問題もある。実際に入社してから、社内文化というか、実に厄介なものにぶち当たる。どんなに賢く、知識豊富で、経験を積んだ人でも、「できること」と「普段やること」との間には基本的に差異があるのではないか。

3.人材の育成が困難

そもそも明確なスキルセットがなく、各社で求められる役割も異なる情シス。人数が少なくても増員されない一方で、運用管理の負荷は増大、さらにヘルプデスクなどさまざまな業務も追加されてきた情シス。このような背景から、今求められている「変化をもたらす情シス」が登場するのは困難という訳である。

新人が離職しないための育成は、どのようにすべきなのだろうか。その背景には、企業文化が「大きな壁」を作っているため、新しい波に乗りたい新人でも、会社のルールで跳ね飛ばされてしまっている。どんなに能力のある将来有望な人材でも、新しいことへの意欲を頭から反対されるなら、離職を考えるのも当然なのかもしれない。新しいことへの意欲を大切にしているから、企業よりもベンダー寄りに方向性を見出しているのも理解できる。

「変化をもたらす情シス」とは、IT活用による業務改革の提案や推進、そこにかかるシステムの選定などを行い、自社のビジネスのIT化に貢献する「IT戦略人材」であるが、それを実現するには、自社ビジネスを俯瞰することが必要。そして、そもそも社内における情シス像が明確でないため、キャリアパスも描けず、育成環境が整わないのは当然のことだと言える。

4.どうすれば、情シスの現場は変わるのか

人材不足、管理運用の複雑化による負荷増大、育成環境の整備の難しさ。これらの複雑な問題が絡み合い、「変わりたい」と感じていても変われない情シスが多い。それでも、情シスのあるべき姿を考えて欲しいのである。

僕は今、管理運用の属人化に注目している。
少ない人員で無理なくこなせる業務体制を作るのもわかるが、人員が少ないから属人化が生まれてくる。悪いことではないが、分散配置されているシステムなどは、例えばERP導入などで標準的な仕組みに統一すべきではないかと思う(ERPとは、Enterprise Resources Planning の略であり、企業経営の基本となる資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を適切に分配し有効活用する考え方)。

このように、情シスの負荷を軽減する方法として必要なのは、「何をすべきか」に対する選別であり、やるべき業務を絞れば、業務の効率化が生まれ、新しい業務へのチャレンジがしやすくなるかと思う。この部分を推進していくことがDXではないか。

個人的な考えであるが、システム構成の複雑化を防ぐには、システムの「ぬし」のような属人的な環境と体制を壊していかなければならない。

このように情シスの悩みは深いと言える。しかし、ここ数年、あらゆる産業がITに目を向けていることは確かで、ITの重要性を全く理解していない経営陣はほぼ皆無であるのも事実である。ビジネスのIT化を正しく推進していける部隊、それは情シスだけであり、情シスに追い風が吹くことは間違いない。

5.おわりに…人材確保について

企業を成長させるには、自社の顧客とマーケットをよく理解する人材を抱えることが大切。また、IT戦略については、ビジネス課題に対して何をITで解決でき、何を解決できないかを、自身のスキル領域に留まらず人脈やビジネス・パートナーを活用して的確に判断できる技術者を抱えることが必要。

しなやかな組織を目指すには、これらの能力を持つ人材をバランスよく保つことが重要だ。会社のことをよく知り、好きになり、人脈形成を行えるリーダーを作ることである。最後に一言付け加えると、魅力的なリーダーがいる組織や企業には、優秀な技術者も集まるものである。

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熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

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