1. 情シスは恵まれた環境だが、後任育成は十分にできなかった
秋が深まり、冬が近づくと鍋料理が恋しくなる。鍋料理のルーツは縄文時代にまでさかのぼると言われ、日本全国の土地の食材や風土を活かした鍋料理がたくさん存在している。鍋料理がコミュニケーションを深める食事であることも大昔から変わっていない。個人的な感想だが、コミュニケーションが上手になる季節は冬だったのかもしれない。
さて、今回は情シスの後任育成やアウトソースと、社内に残す業務(知識)について考えたい。いつもの通りお茶でも飲みながら気楽に読んでほしい。僕も温かい飲み物を飲みながら書き進めよう。
以前の職場(NHK)では、後進となる情シスの育成が難しかったことを覚えている。情シスへの異動は個人の希望を最優先していたが、情シスの分野が技術系なのか、管理系なのか曖昧な職場であったからだ。放送設備に関する基幹システムは技術系の社員が担当し、事務処理や人事は管理系の社員が担当することが多く、職場では明確に分かれていた。
当時、情シスへの希望者が少なかったが、その理由は、情シスに一度異動すると滞在期間が長くなるというイメージが強かったこと、専門知識を身に付けるには時間がかかることなどがあったと考えられる。さらに、ベテラン社員が多い職場である印象が強かった。しかし、僕にとっては恵まれた環境と思っていた。一度に技術と事務系を経験できるし、人脈形成には最高の職場だと思ったからだ。しかし、後進の育成に関しては、自分自身が常に勉強している時間が多く、正直十分な対応ができていなかった記憶がある。
2. なぜ、情シスでは後進の育成が難しいのだろうか?
情シス内での後進育成についてだが、思うように進まない原因がいくつか考えられる。
- 明確なスキルセットがない
- 組織(部署)ごとに必要とされるスキルが異なる
- 新しい業務が追加されるたびに仕様変更対応が必要となる
- 上記のような仕事の負荷があり、後進を育成する時間も労力も失われている
これらは言い訳に聞こえるが、本当の話なのだ。
さらに、部署ごとにIT人材の役割が異なり、それぞれ異なるシステムを採用しているとIT人材の横断的な活用が困難になってしまうことも、後進育成の足かせになる原因と考えられる。
3. 情シスがヘルプデスク業務を行っている現状
様々なデバイスが登場したりシステムの変更があったりすれば、必然的にヘルプデスクへの問い合わせも多くなる。基本的にヘルプデスクは1対多数の関係にあるため、同じ内容の問い合わせに何度も対応せざるを得ない状況が生まれる。ヘルプデスク業務は純粋に忙しく、後進育成が進まない大きな原因と言える。
4. 運用技術や知識の空洞化が危惧される今、後進の育成は急務
トラブルへの対応が遅れる原因の1つに、基幹システムへの新たな機能追加が多くなり、データ経路が複雑になることが挙げられる。トラブル発生時には原因究明に時間がかかり、ベテランの知識に頼るしかない現象が起きる。
ベテランがいなくなっても既存の人材で対応できるよう、後進の育成は急務なのである。しかし、数々の事故事例からも明らかだが、ベテラン人材に比べて若手のIT人材が不足している問題に直面している。いま、運用に関わる技術や知識の空洞化の危険性が叫ばれているのだ。
5. アウトソーシングで丸投げすることによる危険性
アウトソーシングを上手に活用すれば、人材不足の問題から解放されるかもしれないが、すべてを丸投げすると技術や知識の空洞化が起こり、十分に対応できなくなるため注意が必要だ。できれば上手く活用してパートナーを獲得しつつ、後進の育成にも力を注いで両輪で人材の確保に取り組む必要がある。一度手離れしてしまうと、その技術や知識は取り戻すことが難しくなってくる。この両輪の意味を理解してほしい。
6. 2025年の崖に向け、DXが急務なことはわかっている
既存システムが更新できずDXが実現できなければ、2025年以降の経済損失は年間最大12兆円になる可能性があると言われている(※)。そのため多くの企業はIT人材の獲得に力を入れているが、まだまだ人材が不足している。
外部からの登用だけでなく、可能な限りの自社での後進の育成を行ってほしい。特にベテランから若手社員にバトンをうまく渡さなければならない。以前の職場(NHK)では定期異動による体制の変化は激務につながったが、再構成をすることで新たな視点が生まれ、それが気づきにもつながり、より進歩していくものと思う。DX推進で必要なことは、体制の再構築なのかもしれない。
※経済産業省「DXレポート(2018年)」
7. 人材確保がうまくいかないのは、本人のやりたいことを実現していないから
昨今、転職市場が活性化している。離職について調べてみると、情シス担当者の離職数が増加傾向にあるとのこと。理由の1つに情シスに襲いかかる業務負荷が大きくなっているらしい。業務負荷は常態化している場合が多く、「入社前に聞いた話と違う」、「やりたいことをしたくてもできない」など、方針の食い違いが離職する意思を早めていると考えられる。
さらに企業側も欠員を補充するために採用活動を行うが、情シス業務に広く対応できる人材がそれほどいないため確保することは難しい現状がある。だからと言って採用条件を緩くすると間違った採用をしてしまう恐れがある。企業側の悩みもある。
8. 入社すると同時に退社について考えている?
経営陣が情シス業務の中身を詳しく理解していないのは今に始まったことではないが、業務にどの程度の人材を動員すればよいのか適切に判断することができていない。業務負荷が大きいと、現場で働いている社員のモチベーションに影響を及ぼす。また採用活動も消極的になり、結果としてベテランの知識を借りて後任への育成ができない現状がある。
常に複数の社員で対応するべきと言っているのではなく、仮に1人で行うとした場合、必然的に仕事量も多くなり担当者に大きな負荷がかかる。情報システム業務は、インフラの整備やシステム開発、サポート業務や企画業務など多岐にわたる。これらの業務を1人の担当者が行うとなると、業務内容を共有する同僚などもいないため、精神的にも追い詰められ、転職や退職せざるを得ない状況が生まれてしまうという訳だ。
9. 情シスの人材育成のポイント
情シスが後進を育成する際のポイントをいくつか挙げてみよう。
- とにかく、学び続ける必要がある。
IT関連の技術は年々発展している。10年前とは機能や便利さ、必要なコストなどが大きく変化している。この部分のノウハウが大切で、情シスは最新の技術やトレンドを学び続けなければならず、常に知識のアップデートが求められている。 - 社内リソースの情シスでIT業務に対応する場合、人材育成は必要不可欠だ。
基本的には経験年数や職階に応じた研修が必要になる。品質管理や開発標準といった基礎的業務からプロジェクト管理、IT企画、果てはリーダーシップと多くのことを学ぶ必要がある。研修を受ける人材の役割やレベルなども考慮しながら、適切な人員選択と研修を適宜行っていく必要がある。何度も経験しているが、突然の退職やイレギュラーによる人員入替が発生した場合、前任から後任に業務がしっかりと引き継がれることが重要になってくる。
10. 最後に…情シスに求められる人材と情シスの維持(今後のスタイル)
- プロジェクトマネジメントができる
- 自社システムを素早く理解できる専門性
- 社員だけでなく外部(ベンダー)からの信頼
- コミュニケーション力が高い
今後の情シス体制をどのように維持していくかだが、社内リソースで維持しようとすると、派遣従業員を雇用したり専門的知識を有する委託先の常駐サービスを使うアウトソースの検討が必要かもしれない。
最近では、情シス業務を担う子会社を新たに設けて専門的に対応する流れもできつつある。さらに、DX推進といった外的要因もあるため、高度なIT業務が求められるようになってきた。そのような変化は常に情シスの業務内容や役割も変化し続けていることを意味している。DX推進を可能にするためにも、アウトソースをうまく活用し、両輪で進んでいくことが大切なのかもしれない。
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■著者紹介■
熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住
40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。