使用者の発言を鵜呑みにしたトラブル対応は危険
どのような状況においてもスピーディな対応が求められるのはヘルプデスク。
しかし、ヘルプデスクの対応をしていると、「先週からなんだか急に PC の調子が悪くなったんだけど…」とか、「ネットワークにつながらなくなった」といった問い合わせが毎日にように続いたりする。また、このようなトラブル対応に想定以上の時間がかかってしまったり、何度も同じような問い合わせがくるケースがある。多分、偶然ではない。
ヘルプデスクは、様々なケースに対応するためにトラブル対応マニュアルを準備することはあるが、状況を見ての臨機応変な対応が求められたり、各担当者のスキル、経験不足などから、対処時間などのばらつきが発生しクレームにつながってしまうことがある。そして、クレームにつながるまでには、PC 使用者側がどんな操作をしたかの記憶がポイントになっている。
クレームにつながる要因のひとつには、PC 使用者がどのような操作で PC がおかしくなったか、正確に覚えていなかったり、「何もしないのに PC がおかしくなった」などと、状況確認のやり取りだけで時間がとられたりすることで、対応策が見つからなくなってしまうことである。
これによって、つじつまが合わなくなったりするため、PC 使用者との関係に問題が発生している気がする。
「正直、使用者の IT リテラシーが少しでも高ければ、こうならないのに…」と思ったことはたくさんある。
また厄介なのは、電話やメールでの状況把握で解決できずに PC 使用者の席へ駆けつけたものの、時間がかかるだけでなく、すぐに解決できない時にはクレームにつながってしまうことだ。
全てがこのような状況ではないと思うが、正しい状況確認ができないことが大きな原因かと思う。
使用者の発言に頼らないトラブル対応
以前の職場では、原因を切り分けるため、「差異情報」を利用していた。
これは、人間がどのように操作したかを記憶に頼るのではなく、IT 資産管理ソフトを使って、定期的にインベントリ情報を収集し、機器の台帳情報が更新されることを利用し、現状を把握することができるものだ。
機器の「差異情報」を簡単に確認できるため、任意の時点でのインベントリ変更情報を把握し、トラブルの原因究明などに役立てることができた。
原因と思われるソフトウェアのインストールがあった場合は、そのソフトウェアをアンインストールして PC の状態をチェックしてみるといったトラブル発生元の切り分けに役立つものだ。機器の「差異情報」を有効に活用することで、使用者の発言に頼らないトラブル対応につなげることができるのである。
また、PC ごとにどのような故障があったか、トラブルの際にどう処置したかといった内容を残しておくことも大切で、機器のトラブル内容や対応履歴をデータとして残しておくことと、インシデント管理機能を備えたカルテのようなものを作るとよいのではないか。こうすることで同じようなトラブルがあった場合、スピーディに対応できるようになる。
ヘルプデスクの役割以外のヘルプなら、「ノー」と言いたい
「社内のヘルプデスク業務が多い」原因としては、利用者側でも調べればわかる程度の質問や、トラブルにすぐ対応しなければならない雰囲気が社内に蔓延している点があると思う。
本来、情シスとしての役割でもある、業務を改善するという時間がなくなるばかりか、知識やスキル向上を目指す気力さえなくなってしまっている。
結局、仕事内容を理解されず、正当な評価も得にくくなり、担当者としての職務範囲もわからなくなり、責任も業務時間も悪循環のようになるのではないか。どこかで、断ち切らなければならない問題だ。
いちいち何でも聞いてくる困った社員には、正当なヘルプデスクの役割以外のヘルプなら、「ノー」と言わなければいけないヘルプデスク側の問題もあるのだろう。
しかし、「ノー」を言うためには、冷静で誠意を感じられる丁寧な言葉づかいを身につけることが大事。特にクレーム対応パターンなどは、情シスが使う用語集や、よくあるトラブル対応はマニュアル化しておくことも重要だ。
ヘルプデスクをした人しか分からない経験
僕は、トラブル時に現場に行って利用者と会話するのが好きだった。
色々な職種がある職場だったので色々と話を伺う機会があり、聞いておいて損をすることはなかった。その利用者が行っている業務への理解も深まるので、ある意味、会社にとっての「なぜこれが必要なのか」、「どうしてこういう使い方をしたのか」など、利用者の本意を知る手がかりにもなると思ったからだ。
また、情シスとしてスキルに直結しない知識だとしても、役に立つのではないかと思って対応していた。
業務システムに関して直接、業者のエンジニアと話をする機会が増えたり、技術者として視野が広くなったり、人脈を作るうえで有効であったり、スキルアップが毎日できるので、たとえ嫌なことがあっても、情シスで働くことを誇りに思っていたし、楽しく仕事ができたことを覚えている。
ヘルプデスクの一番のいいところは、直接「ありがとう」と言葉をかけてもらえることだ。当然といえば当然だが、解決した場合は何といっても嬉しい。ましてユーザが喜んでくれた時などは、微笑んでしまう。
ヘルプデスクは、感謝の言葉を直接いただける職場なのだ!
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■著者紹介■
熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住
40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。