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情シス部門の必須知識!経営層の理解を得て予算を獲得する方法

情シス
熱海 徹 氏
プレゼン
この記事の内容
1.意思決定者である経営層に響くプレゼンテーションとは
2.プレゼンテーションにおいて、最も重要なことは何か
3.プレゼンで決裁を勝ち取るためのポイント(まとめ)
4.おわりに…緊急時に対応できてこそプロフェッショナル

1.意思決定者である経営層に響くプレゼンテーションとは

新規事業のアイデアを企画し、実現のための予算を獲得するためには、社内で企画のプレゼンテーションをしなければいけない。

企画そのものの善し悪しも重要であるが、そもそも背景をよく知らない人たちにどうプレゼンするかという「見せ方」も大きな課題である。このことを踏まえておかないと、自分の言いたいことだけを一方的に話した結果、新規事業が立ち上げられないという結果を何度も経験してきたからだ。

プレゼンの目的は、相手に企画の趣旨を理解してもらい、その魅力を伝えることで、企画を採用へと進めることである。経営層への説明プロセスは、グループ長(マネージャー)→部長→経営層などの段階を踏むケースが多いが、各プレゼンではそれぞれの聞き手の立場を理解することが最も重要になる。例えば、直属の上司へのプレゼンは、企画を実現するために、さらに次のステージへと進ませることが目的となる。別な言い方をすると、プレゼンの本当の目的は、企画を説明するだけではなく、「相手に自分が望む行動を促すということ」である。経営層への説明までには道のりが長いが、この部分をしっかり対応することが、成功への道だ。

僕もプレゼンの失敗はたくさんしている。特に、相手の聞きたいことと関係ない話を進め、関心を示してもらえず、途中からまともに聞いてもらえなかったことが大半である。プレゼン自体がよい評価を受けても、相手が自分の望む行動を取ってくれなければ、結果的にそのプレゼンは失敗になる。つまり、経営層への説明に進むにはこのプロセスが重要になってくる。

周りを巻き込んで、仲間を作り進めなければ成功しないというのは、この部分を意味している。

プレゼン相手の行動を促すためには、その相手の求めていることを明確にして、こちらの期待していることを的確に伝えなければならない。プレゼン目的達成のキモは、相手にとってのメリットを伝えることなのである。例えば、部長は「会社の中期経営計画の実現にどう貢献するか」といったことに関心があり、より経営側に近い考えでとらえる必要がある。つまり、相手の立場に合った考え方で臨まなければ結果につながらないのである。ここは難しい部分だが、自分が経営する立場になって考えることもプレゼンを成功させるカギなのである。

さらに上層に行けば行くほどプレゼンをする時間は短くなり、経営層になると簡潔かつインパクトの強いプレゼンが求められてくる。そこでは、完成されたプレゼン資料を使い、自信を持って説明できるようにならなくてはならない。しかし、ここまで段階的にプレゼンを行ってきたことで、自分には仲間がいることを忘れないようにしたい。

2.プレゼンテーションにおいて、最も重要なことは何か

何より重要なことは「わかりやすさ」につきる。わかってもらわなければ「前に進める」以前に検討すらされない。従って、どれだけわかりやすく説明ができるかは絶対満たすべき条件と言える。

自分ではわかりやすく説明しているつもりでも、全く意味が通じていないことがよくある。特に、情シスの単語はわかりにくさではピカイチではないだろうか。僕が心がけていたことは、わかりにくい単語を長々と説明するのではなく、できるだけデータを使って論理的に説明し、数値化したことである。個人差はあるが、説明者が熱意を持って伝えることも大切で、新規事業が成功することを自ら確信していなければいけない。謙虚な姿勢になりがちだが、不安げな説明では信頼されないということもある。

説明を簡潔にわかりやすくするためには、「5W2H」に当てはめ1つのストーリーを作って臨んでいた。「5W2H」で確認してみることは、新たな課題を見つけることができるので、プレゼンにはぜひ準備して欲しい作業だ。

次のような要件をまとめ、ストーリー化してみるとよい。

Why:なぜ、そのシステムが必要なのか。
What:何を提供するのか。
Where:どこで行うのか。
When:いつ行うのか。今やる理由は何か。
Who:誰に提供するのか、誰が運用するのか。
How:どのようにして実現するのか、どのように行うのか。
How Much:いくらかかるのか

少し補足すると、上司への説明で心がけていたポイントは、上司から質問された場合、いったんそれを検討してみることにしていた。テクニックとまではいかないが、上司の考えを取り入れることで、その事業への参加感を作り、仲間を作っていく効果があると思ったからである。

説明資料は複雑にしなかった。できればホワイトボードを使い、手書きで説明したり、注目して欲しいポイントを見てもらったりして、プレゼンの現場で集中して臨んでもらいたかったためである。複雑な資料を作ることがあまり得意ではなかったこともある。

プレゼン中に雑談的な質問をしてくることがあるが、できればこの質問を気にして、丁寧に対応して欲しい。丁寧に対応してくれたことを相手は忘れない。2回目に説明する冒頭で、「前回の僕の質問に即対応してくれてありがとう」と言われれば、そこで「つかみ」が生まれ、会話がスムーズにできるのである。緊張感を持ってプレゼンに当たることは大切ではあるが、「どの角度からでも対応する」という対応力もプレゼンには必要なのである。

また、説明する相手によっては、頭から否定的ではないが、共通して、「そもそも論」を言ってくる人もいる。例えば「そもそもこれって何のためにあるシステムでしたっけ?」と、言ってくるような場合だ。ここで長々と説明するとプレゼンが終わってしまうが、これをクリアしないと先に進まない。相手に悪気はないと思うが、ここは想定しておかなければならない。

質問する側はシステムを使うに至った「背景」が重要との考えからだろうが、このような質問者は必ず「素人質問でごめんね!」と言ってくる。相手は決して素人ではないが、そう言ってくる人が多い。

こうして背景をうまく説明して中身に入り、詳しい話をすると、「僕は専門家でないので難しい言葉はわからないが」と言ってくる。確かに、意地悪で難しい言葉を使いたくなるのをぐっとこらえて説明していくが、ここで大切なことは、相手を素人と思わないことである。難しい言葉の理解度が違うだけで、決して自分が優位に立っていると思って説明をしてはいけない。実は、営業トークでもこのようなシーンがあると思うので気をつけて欲しい。

経営層は、システムの話をする場合、「どのような会社がこのシステムを使っているか」などの情報をとても気にする。できるだけ導入第1号になることを避けたいのか、正確な情報を入手して取り組んでほしい。ベンダーからの情報だけではなく、客観的情報が入手できるような友人を、日ごろから意識して作っておくことも重要だ。

3.プレゼンで決裁を勝ち取るためのポイント(まとめ)

ここまで伝えたことは、次の4つのポイントにまとめることができる。

①プレゼンとは、話し相手の期待する内容を盛り込むことが重要である。プレゼンの目的は、プレゼンにより相手を自分が望む行動へと促すことであり、それを踏まえたプレゼンの設計が求められる。意思決定者までの道のりで仲間を作っていくことも大切である。

②社内プレゼンは「グループ長(マネージャー)→部長→経営層」などの段階で行われる。各プレゼンでは各階層に応じたメリットを提示することが必要。マネージャーには実現に向けた客観的な情報、部長層には部門目標達成におけるメリット、経営層には、収益性の向上や経営課題の解決がはっきり伝わる内容が大事。

③各階層でのポイントを押さえ、「5W2H」での情報整理とストーリー性のあるプレゼンにする。

④人を動かすプレゼンはわかりやすいだけでなく、ストーリーの中に本当に成功すると確信していることをデータで示し、熱意を持って伝えることが大切。

例えば、新規事業を立ち上げる際に企画を考える順番としては、まず「Who」があり、次に「What」が来て、最後に「How」がある。つまり、「誰に何を実現しようとしているのか」を考え、そこが明確になった上で「How」、つまりどんな道具や手段を使って実現するかを考えることが大切である。ところが、まずテクノロジーありき、ツールありきの議論になってしまいがちであり、これではなかなか経営層には理解されない。

情シスは、新しいテクノロジーを提案したことで、職場の環境が変われば「ありがとう!」と感謝してもらえるし、自分が提案したことで「確かに未来を変えられた!」という実感をつかめる。これこそ、情シス部門の仕事の醍醐味なのではないかと思う。

4.おわりに…緊急時に対応できてこそプロフェッショナル

少し余談になるが、僕が車を購入した時の話をしたい。この時、僕はオプション選びで工場出荷のものを選んでいた。何か後付けよりも工場にいる間に組み込んでもらった方が安心だからだ。

最近、サイバーセキュリティの世界でも「シフトレフト※」という考え方が導入されており、製品が納品される前にセキュリティ対策が十分か、または納品後の対応ができるものなのかを重視する考えが常識になりつつある。一度、運用されてからの対策より、設計の段階から検討するプロアクティブな考えの一つだ。

※シフトレフト:開発やテストを効率化して手戻りを防ぐために、品質評価・改善のプロセスを前倒しし、開発サイクル全体を高速化するアプローチ。

しかし、情シスの業務においてどれだけ導入前に対策を施しても、リリース直後に新たな脆弱性が発覚することがある。対策をする場合、システム上に影響がなければいいが、簡単にバージョンを上げることはできない。やはり動作テストが不可欠になってくる。情シスは、高度な知識と正確な対応が求められるが、常に想定外のことも頭に入れて行動しているのである。

さらにシステム障害が発生した場合、瞬時に見極める技術力と正確な判断力が必要になってくる。担当者は自信を持って障害箇所が限定できるかどうか、経験だけに頼るのではなく常にネットワーク構成が頭に入っており、迅速な対応ができるように日夜努力していることを伝えておきたい。

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熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

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