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情シスは生成AIツールをどう使うべき? 失敗談から考えるビジネスへの活用法

情シス
熱海 徹 氏
この記事の内容
1. 話題の生成AIツールと情シスはどう関わるのか?
2. 30年前にエキスパートシステムに出会っていた
3. 身近になったAI技術の活用
4. ChatGPTが身近になった理由
5. ChatGPTを使ってみて気づいたこと⇒企画の案出し&文書作成はできそうだ
6. 生成AIによるビジネス活用は情シスがカギ
まとめ

1. 話題の生成AIツールと情シスはどう関わるのか?

11月は秋と冬の境目、朝晩の気温が下がり、風が冷たくなるなど急激に寒くなる。個人的には、夏の暑さを思えば寒さは我慢できるかもしれない。いつも思うが、あっという間に秋が終わる。できる限り休みを利用し、綺麗な景色を見るために旅行するとか旬のものを食べて、心身共にリフレッシュできれば幸せである。

今回のコラムは、最近の話題になっている生成AIツールについて業務として役に立つのか、考えてみたい。代表的なものとしてChatGPTがあり、それをはじめとする生成AIについて、専門的な解説というわけではないが、情シスがこれからどの様に関わっていくのかを考えていきたい。

2. 30年前にエキスパートシステムに出会っていた

1990年頃、前職(NHK)での話になるが、東京の勤務で番組技術部に属していた。主な仕事は番組マスターコントロール室で番組運行のシステムを監視していた。切り換え作業は自動運行だったが、緊急速報(地震速報)がある場合、自動運行から手動に切り換え、緊急ニュースを送出する仕事だった。NHKの場合は、テレビだけでなくラジオもあるため、操作手順が複雑で緊張しながら対応していたことを覚えている。複雑な操作はマニュアルを見ないとできないものもあり、緊急なうえに冷静な行動が求められるため、大半の社員は苦手な時間だと思っていたに違いない。

ここで考えついたのが、エキスパートシステムを使って誰もが間違いなく迅速な対応でサポートができる装置である。当時はまだまだ出始めのシステムで、日本での使用実績も少なく、エキスパートシステムで何ができるのか事例などを調べる手段がなかった。エキスパートシステムは、単純に言うと「AであればBである(IF-THENルール)」というような判断を繰り返して最適解を導き出す考えを持ったものである。あらかじめ考えられるパターンを整理し、目の前の条件をインプットすれば、マニュアルを見なくても正確で素早い操作が誰にでもできるようしたかった。簡単に言うと専門的知識がなくても専門家になれる装置ということだ。

開発では、実際の想定されるパターンを作り、読み込ませる作業を行った。ところが、人間が判断するパターンの洗い出しをしていくと、驚いたことに、判断の内容が結構曖昧であることがわかった。ある状況の時に判断するパターンなど、ある条件の数が膨大になり緊急時のサポートシステムとしては、使えないという判断になってしまったのだ。開発と試行運用を繰り返したが、効果が望めず採用されないで終わってしまった。

エキスパートシステムには、あらかじめ膨大なデータを人間の手でルール化してから入力する必要があった。専門分野の知識をシステムに入力するための形式にしたのちに、データ入力は人間が行わなければならなかった。最大の弱点は、「ルールが明確でないものはシステム化できない」という点だった。エキスパートシステムの人間の知識には、言葉で明確に記述できる「形式値」と、経験と勘にもとづく「暗黙知」の2種類があり、番組を切り替えるための運行現場では、状況によっての「暗黙知」が多くありベテランの勘たるものがルールとして明確にできなかったことが、断念した最大の理由である。

30年たった現在の生成AI技術でできるか? と問われると、自ら学習させて専門家の知識を持った頭脳ならできるとは思うが、依然として最終的な人間の判断が必要なのではないかと思う。

話題の生成AIツールと情シスはどう関わるのか?

3. 身近になったAI技術の活用

AI技術とは「大量の人手と時間のかかる作業について代行できる」とか「非常に多くの業務を自動化できる」など、ワクワクする内容が多いが、まとめると「創造性」をもたらしてくれるような技術ということだ。AIが得意なことは、反復的で平凡な部分を引き受けることに違いないが、「創造性」をもたらしてくれるところに僕は未来を感じている。

2013年頃、これも前職(NHK)での話になるが、AI(人工知能)技術を放送番組に使い始めた頃、情シスの担当で携わったことがある。と言っても、ビッグデータを活用するためネットワーク回線の状態をモニタリングする仕事だった。さすがに生放送ではなかった記憶だが、膨大なデータから人間の行動パターンを解析した災害報道番組だった。正直なところ、どんなシステムを使っていたかは知らなかったが、IBMのWatsonだった気がする。当時は、機械学習によって大量のデータを自動的に学習でき、インフラ技術が進歩したことによって、機械学習を搭載したシステムの代表例がIBMのWatsonだった。Watsonは機械学習によって自然言語を解釈でき、蓄積したデータを基に仮説を立てて評価・判断を行うものという記憶がある。技術の進歩により、エキスパートシステムから機械学習によるAI技術へと変わり、より身近なものになったことを鮮明に覚えている。

4. ChatGPTが身近になった理由

「ChatGPT」は米OpenAI社が開発した自然言語処理モデルの1つだ。自然言語処理モデルとは、人間が作った文章の意味や文法のルールをコンピュータが理解し、それに基づいて応答や文章生成を行う技術である。一度使ってみるとわかるが、ChatGPTは利用者のリクエストに対し自然な文章での回答を生成することができる。かなり正しい内容であるが、人間のチェックは必要である。たくさんの人が試すことで多様なデータが蓄積され、今後、企業でも活用されることになるのは間違いないだろう。情シスとしても「IT部門の業務にどう役立つか?」「今後情シスの関わり方がどうなるのか」を考えてみる。

5. ChatGPTを使ってみて気づいたこと⇒企画の案出し&文書作成はできそうだ

個人的に利用してみたい作業は、企画を立案する時のアイディア出しである。本当にできるかわからないが、ブレインストーミングのようなものができることを期待している。ただ、会社の実データなどが必要になるのかわからないが、企業の情報を入力する場合、万が一の情報漏えい被害について注意が必要であり※、特に顧客の個人情報などの入力は慎重に対応すべきである。ある意味、ルールが設定されていない場合は使用を控えるべきかもしれない。

情報収集については、ChatGPTを使えば探索にかける時間を短くできるメリットはありそうだ。文書作成に関しては、試してはいないが、著作権侵害などのリスクを考慮し確認作業を綿密に行う必要があると言われている。

※参考情報

Bing Chat Enterprise(Microsoft が提供する対話型の AI チャットツール)の場合、チャットの入力内容や応答結果の履歴機能が無効化されています。そのため、過去の入力と結果を再表示するようなことはできません。
>Bing Chat Enterprise とは? 概要や価格まとめ(2023年8月1日現在)

6. 生成AIによるビジネス活用は情シスがカギ

正直に言うと、ChatGPTを個人で使っていても、そのリスクはあまり意識しない。どちらかというと、賢い辞書のような扱いではないだろうか。ところが、利用者からの機密情報漏えい、場合によっては著作権/肖像権を侵害するコンテンツが生成されることがあり、文書作成などの際には、確認作業を絶対に怠ってはいけない。企業内で発生すればレピュテーションリスクと同様に、経営に大きなダメージを与えかねないからだ。

生成AIは学習した情報に基づき、質問されたことに対して最もふさわしいテキストをアウトプットしている。しかし、正しい情報かどうかには疑いの目を持つことも必要で、現時点では事実と異なる答えを生成AIが出してくるかもしれないと考えて確認する作業を行ってほしい。

仮に企業での利用に関して、データ管理を情シスが行ったり、インプットに使われる情報を制限したりすることは現実的ではなく、その作業を情シスがやるべきではない。むしろ法律や倫理関係に属していて、ガバナンスなどは、コンプライアンス部門などと連携しながら、業務フローの標準化を考える必要がある。

情シスが関わるところは、業務上の安全な使い方について勉強会を開催するなど、使い方について提案していく部分ではないだろうか。生成AIの特性上、使いこなせる人とそうでない人に分かれるだろう。社内のリテラシーを高めるには、技術をよく理解し、何に使えるのか、どのようなリスクが想定されるのかを考えられるのが情シスであり、経営戦略の一員に加わり推進してほしいと思う。

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7. まとめ

生成AI技術を活用したサービスは今後増えていくだろう。ビジネスでの利用としては、この作業はAIにやらせるなど特定の仕事をやらせるものとして存在している。ただ、30年前にエキスパートシステムの導入を考えたのに失敗した理由には、ルールをデータ化しても、状況によって人間の判断が違ってくるから、また、ベテランの勘のようなものが存在し、上手くいかなかったからである。

個人的な考えであるが、部分的な使い方だけを試すのではなく、企業戦略として効果的な利用に臨むためには、1人の社員としての“AI”という存在についても考えてみてもいいのではないだろうか。AI活用の目的は、ビジネスの反復的で汎用的な業務を引き受けることで、人間を創造力の発揮に専念させることかもしれない。しかし、企業が生成AI技術を活用していく上では、社員(人間)と同等の社員(AI)を誕生させることも必要な時代がくるかもしれない。

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熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

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