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情シスが他業務と兼務するリスクとその対策

情シス
熱海 徹 氏
この記事の内容
1. 情シスの業務を他の業務と「兼務」することの危機感について考える
2. 一般的な情シスのあり方を整理する
3. 情シスを兼務にしている理由とは
4. 情シスを兼務することにより、いずれかの業務の品質が低下しないだろうか?
5. 兼務の環境では、負荷が集中し労働環境が悪化する恐れがある
兼務は全てにおいて中途半端になり、専門的スキル取得がおろそかになる
まとめ

1. 情シスの業務を他の業務と「兼務」することの危機感について考える

夏の猛暑は年々過酷になっている。台風や豪雨に関するニュースを何度聞いたことだろう。天災リスクがより身近なものになったと感じる。10月は2023年度の後半の始まりで、今からが本番と思っている。毎年のことだが、10月はやる気が出る。体のコンディションもよい。年末に向けて頑張れそうだ。

今回のコラムは、前職(NHK)で技術施設管理と情シス業務の兼務を行っていた時のことである(数十年前の話)。兼務を続けたことによって気づいた問題点と、その対策方法について解説したい。当時、ロータスノーツのRDB機能を使ってドキュメント管理を行っていた。例えばDB更新やリオルグ、バックアップ管理などの業務を毎日1人で行っていた。

決して難しい運用ではないものの、普段の業務と兼務で行っていたため、運用手順などが複雑になればなるほど、1人での対応に危機感を覚えていた。障害が発生した場合でも、普段からこのシステムを使っている立場だったので、兼務であっても全く不満を感じることはなかった。兼務が問題と言うよりもシステム担当者を1人で行っているリスクを感じていた。これは情シス業務だけの問題ではなく、1人の担当者またはそれに近い状況に依存することは、様々な面から危険であり問題であることを意味している。

2. 一般的な情シスのあり方を整理する

情シスは、会社の基盤となるインフラの構築とその運用・保守業務、ソフトウェアやパソコンなどのIT資産管理、ユーザ管理、ヘルプデスク業務、セキュリティ対策などに至るまで、業務の幅が広いのが特徴である。そのあり方を整理してみた。

●情報システム部があり専任で担当している
最近では1人で担当している企業も多くあり、兼務の場合と同様の問題を抱えている。会社の規模により、特に従業員数によって数名の専任チームを構成しているところもある。
●情シス業務を他部署が兼任している
普段の業務と兼務で情シス業務を行っている。特に総務部や経理部などの社員が情シスに関する業務を行っている。
●専属の情シス部門がなく担当と名の付く者が社内にいない
何かトラブルが起きた場合、社員の中で詳しい人が集まり、その都度対応するパターンである。ただ、対応はしなくても、外部ベンダーとの会話ができる社員が決まっていることがある。

「普段の仕事」プラス「情シスの仕事」であるが、簡単に兼務と言っても、情シスの基本的な仕事は下記のようになる。このような仕事の兼務は果たして実現できるのだろうか。特に労働時間的には困難な部分も多く発生していると思う。

情シスの基本的な仕事(一例)〜情シスは兼務でできる仕事なのか?〜

  • 社員からの問い合わせ対応(ヘルプデスク)
    社内から寄せられるシステムやIT機器に関する問い合わせへの対応と、ツールの使い方やパソコンに関するヘルプ対応。
  • 社内イントラシステムの運用と保守
    社内の基幹システムの運用と保守業務。社内システムにトラブルが発生した時の対応や、IT機器の導入による整備。
  • インフラ構築と運用監視、サイバーセキュリティの対策と事故対応
    社内にシステムやツールを導入する際の担当窓口と、情報セキュリティに関する対応。
    など

情シス業務を兼務するということは、上記の内容プラス普段の業務を行うということである。簡単に兼務できる内容ではないということを知ってほしい。

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3. 情シスを兼務にしている理由とは

情シスを兼務にしている理由はなんだろうか。1つには運用コストが考えられる。専任の情シスを置かずに兼務での運用に任せるという、情シス業務に対する経営者の考えである。しかし、会社の規模にもよるが、仮にシステム障害が起きた時に専任部署があるか無いかの違いを考えてほしい。昨今、システム障害が発生した場合、機器トラブルなのか、サイバー攻撃によるものなのかなど、専門的知識のあるところが切り分けをする必要がある。そこは経営リスクとしてとらえる必要があり、専任チームを設置するコストは正しい投資と思うことも大切である。

2つめとして人事上の問題が考えられる。情シスそのものは業務の負荷が非常に高く、専任者を置くことが定着しにくい部署であるということだ。専任担当者になったことで、予想以上に負荷が大きすぎ、これが原因で離職につながる恐れがある。兼務にすると業務量は増えるが、本業を最優先にできるため、このような制度の方がプレッシャーがかからなくてよいという判断なのかもしれない。あくまでも個人の考えである。

ちなみに、前職(NHK)の話に戻るが、情シス本部は東京の放送センター(渋谷)にあった。僕は仙台で技術管理の仕事をしていて、情シス業務は兼務ということで担務(担当業務)のひとつになっていた。当時は何となく中途半端な感がしていたことを覚えている。できれば兼務ではなく、本業が情シスでよいのではないかと思っていた。情シスの仕事に対して時間の使い方に神経を使っていたり、サーバ室に長時間居づらかったりしたことを覚えている。その理由としては周りの社員からしてみれば、何をやっているのかわかりづらい職種であったことは間違いない。しかし、情シスが本来の業務になれば、外部セミナーへの申し込みもしやすくなるし、他部署との交流も増えると思っていた。

実際、重要な役割を担う情シスと言っても、独立した部署を抱える企業はそれほど多くない。今後、情シス業が必要であることはわかっているが、全く経験のない社員が、情シスを担当せざるを得ないという傾向が近年増加しているということである。

3つめの理由としては、情シスは売上を生み出さない部署であり、コストがかかってしまうと経営者が考えていることがある。業務は拡大しつづけるため人材を投入したい一方、コストはかけたくないなどの理由から社内でITに強いとされる人が、情シス業務を本業と兼務させられるケースが増加しているわけだ。しかし経営者は、自分のこととして真剣に対応する時期だということを知るべきである。

4. 情シスを兼務することにより、いずれかの業務の品質が低下しないだろうか?

情シスを兼務している担当者にとって、主に担当している業務がある。そのためいずれかの業務が優先され、もう一方が後回しにされる恐れがある。そのため、次のような問題点が考えられる。

情シスと別の業務を兼務する場合、業務の状況次第では、いずれかがおろそかにされてしまう可能性がある。僕の場合、本来の担当業務が技術管理であり、各放送局の放送設備の管理を行っていた。緊急対応が必要になる場合もあり、情シスで予定していた新ツールの勉強会対応などは、本部から応援をもらうなど、優先順位をつけ、兼務している業務のランクを落としていた。

ほかの放送局では、総務の社員が情シスと兼務していることもある。このケースの場合は、基幹システムにトラブルが発生した場合、どうしてもそちらを優先せざるを得なくなる。基幹システムの問題を放置していると、本来の担当業務そのものに支障をきたす可能性があるためで、情シスの対応が優先ということになる。問題点は、このような状況になると本来自分が抱えている総務の業務を進めることができなくなったり、形式的に業務をこなすだけになってしまったりすることだ。

こうして、情シスを兼務している場合、情シス業務か主に担当する業務のいずれかを優先せざるを得ない状況が起きた結果、もう片方の業務の品質が低下してしまうのだ。なぜなら、業務量が変わらなければ、時間が足りなくなってしまうことが明らかだからだ。

5. 兼務の環境では、負荷が集中し労働環境が悪化する恐れがある

情シスを兼務している人が、自分が抱える本来の業務と、兼務している情シスの仕事をすべてこなそうと思うと時間が足りず、残業や休日出勤が多く発生する割合が高くなる。僕の場合は、休日出勤での対応が多かった。休日は情シス業務がやりやすい。しかし、精神的、肉体的にはよくない。責任感が強い人ほどそういった傾向があるかもしれない。兼務している人は知らない間に負荷が集中している。まわりの協力も必要になってくる。

【対策例】自らの業務量を可視化してみる

情シスに関わった時間を算出することは難しいと思うが、兼務の場合は何かが犠牲になっている可能性がある。どんな些細な仕事でも情シス業務で解決のためにかけた工数を見える化してみるとよい。実はこの工数と実際の仕事内容に当てはめるアセスメントを行うことで、実人員補強や情シス部門の重要性の見直しを図ることができるようになる。担当者しかできない工数を自ら可視化することで、属人化を防ぎ、業務の引継ぎもスムーズに行えるようになってくるのだ。

【対策例】自らの業務量を可視化してみる

兼務は全てにおいて中途半端になり、専門的スキル取得がおろそかになる

多少言い訳になるが、毎日情シスの仕事だけできれば、学習しつつ実践を積み、ITスキルを伸ばしていけるが、他業務と兼務しているとそちらの業務もこなす必要があるため、良い結果が出にくい。中途半端に責任を負っている感じになり、専門的スキル取得がおろそかになってしまう。情シスは常に新しいIT知識が必要であり、日々学習するのも仕事のうちだからだ。

【対策例】専門スキルを伸ばす方法

企業によってシステムの運用方法には共通なところが少なく、情シス部門は孤立しやすい。自分も経験しているが、社外の情シス部門環境を知ることで、自社の環境を改めて考えるきっかけになった。専門スキルを伸ばす場合、周りに相談できるような環境づくりをすることが有効な方法である。外部セミナーや講座などに参加すると、改善策を見つけやすくなる。外部セミナーの場合、有料でしっかり身に着くものをお勧めする。学習はその場限りに終わらせることなく継続が必要であり、有料での参加には責任が伴うからだ。頑張ってほしい。

まとめ

企業の中には、ITに詳しい人材を情シス担当者として兼務させていることも多いと聞く。企業として生き残るためにはDXにも力を入れなければならず、これからも情シスの業務が増えることは間違いない。本来の担当業務と兼務している担当者の負担が多れば、人材を失ってしまうリスクを経営者は本気で考えるべきだ。経営資源の中には人がいる。会社にとっての資源である情報を安全に運用するためには、経営者は投資を忘れてはいけない。一方、情シス業務を軽減するためには、効果的なツールを使ってみたり、情シス内にあるノンコア業務のアウトソーシングを考えてみることが有効な手段ではないだろうか。

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熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

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