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情シスUpdateDay2024

テレワークによるコミュニケーション不足解消と、メンタルヘルスケア

情シス
熱海 徹 氏
この記事の内容
1.テレワークで顕在化した、コミュニケーションの課題
2.情シスはテレワークやWeb会議の環境作りに携わる最前線にいる
3.Web会議での上手なコミュニケーション方法
4.在宅勤務におけるテレワーク環境でオン・オフを作る
5.テレワーク環境によって生じたストレスを軽減する具体的な方法
まとめ

1.テレワークで顕在化した、コミュニケーションの課題

コロナ禍によるテレワーク導入には、IT環境・セキュリティ・制度設計など様々な経営課題が存在し、急ごしらえに整備せざるを得なかった企業も多く存在する。そして、テレワーク環境を作ったことで、元々存在していたコミュニケーション上の課題が顕在化してしまった企業も多いと聞いている。

テレワークでは、社員1人ひとりが離れた場所で勤務するため、「コミュニケーション不足」が起こりやすく、社員同士のつながりが弱くなり、職場内の人間関係が希薄になる。その結果、悩みや不安があっても「相談する相手がいない」という状態になり、1人で全てを抱え込んでしまう社員も出てくるのではないか。

今回は、テレワークにおけるコミュニケーション上の注意点、自身の就業環境が大きく変化する時期に押さえておくべき対策、会社の組織力の低下や、社員の心身の健康について触れ、情シスが取り組むものは何か? または環境をどのように整えていくべきか? コミュニケーション不足解消と、メンタルヘルスケアについて経験談を踏まえ解説したい。

2.情シスはテレワークやWeb会議の環境作りに携わる最前線にいる

テレワークにおいて、Web会議が業務の中心になったことは間違いない。Web会議がなければ、スケジュールの作り方にもよるが「自分が発信しない限り、誰も自分の状況に気付いてくれない」ということが日常的に発生している。

具体的には、次の2つの例を見てほしい。ここで注意すべきなのは、テレワークという働き方のスタイルに起因することと、それ以前から存在していた課題があることを認識することだ。そして、職場のありようについては、個人の努力だけではどうにもならない部分があり、環境整備も含めた提案を行うべきだということを知ってもらいたい。

例① :業務の進め方がわからずに戸惑って、自分から発信をしていなかった

テレワークになったから起きている事象ではないが、テレワークによって顕在化した例である。

例えば、業務を依頼した側は「順調に進んでいる」、「考えながら進めている」と思いたいところだが、もし予定通りに業務が終わらないと「なぜ相談しなかったのか?」となる。一方で、依頼された本人からすると「なぜ助けてくれなかったのか?」、「説明が足りない」と感じ、お互いに不信感・ストレスが生まれる要因となってしまう。まさに依頼する側と依頼された側のコミュニケーション不足が引き金になった事例である。

単に工程管理をしておけば問題は発生しないが、業務に関係なく確認作業が行いにくくなり、それが積み重なることで引き起こした問題である。情シスとしては、他社事例を参考にするなど、積極的に管理ツールを提案していくことで解決に近付くと思う。

例② :問題なく業務を進めていたが、具体的な進捗の報告をしていなかった

一方、業務としては問題なく進んでいるが、依頼した側への進捗状況の報告がないと「着手していないのではないか?」、「忘れているのではないか?」と思われることがある。

本来は全く問題ない状況だが、人間は自分を取り巻く環境や先行きが不透明な状況下でストレスを感じやすい性質がある。余計な不信感・ストレスが生まれないようにするためにも、テレワークの環境では、定期的な進捗報告は怠らないよう心がけるべきかもしれない。

とは言っても、定期的な進捗報告をどのように行うのかが難しい。メール、チャットでの確認だけでは、その時の情感が読みにくいし、無駄な話(余談)が必要かもしれない。全く関係ないことでも話をすれば、気持ちが伝わるかもしれない。

これら2つの例を踏まえて、スムーズな業務の進行をニューノーマル環境で実現するためには、「自分から発信しないと、状況が誰にもわからない」という前提をチーム全員が理解し、「わからない時にはすぐに発信する」、「こまめに状況を共有・報告する」という習慣を当たり前のようにつけることが不可欠なのである。そして、一番大切なことは、日頃から「何を言っても大丈夫」と思える環境作りが重要なポイントではないだろうか。

これらの事例からわかることは、テレワーク環境は、ただ在宅で仕事ができて、Web会議がいつでもできる利便性を追求するだけでなく、雑談コーナーを作ってみるといった環境整備が不可欠だ。そして、その会社に合った環境を提案できるのが情シスではないかと思う。

3.Web会議での上手なコミュニケーション方法

Web会議では、カメラをオンにしている場合にはしっかりと相槌を打つことや、状況に応じて声でも反応することは、なかなか難しいことながら忘れてはいけない。Web会議ではできるだけ顔出しをお勧めするが、自宅の背景や、いろんな映り込みを考えると工夫は必要かと感じている。Web会議ではチャットをうまく使い、進行上の質問や、賛否の判断を行ったりすることをルール化することが、一方的な会議にならないための工夫だと思う。

次の5つは、僕が普段心がけていることである。これは情シスの立場というより、皆さん1人ひとりが心がけてほしい内容になっている。それにしてもWeb会議では、終わった後の余韻が残りづらい。会議を切断する時に、タイミングに迷ってしまうのは僕だけだろうか!

①いきなりWeb会議ではなく、文章化したものを共有しておく

リモートでのコミュニケーションは、チャットやメールがメインとなるが、電話やWeb会議を併用する場合でも、議題とするべき内容や参考資料は事前に文章などで共有しておくべきである。具体的には下記の項目に沿って準備することを勧めるが、議論するポイントとゴールのイメージを文書化しておくとよい。

【論点】
相談事項や話したい内容
【背景】
論点に対して答えるための必要最低限の情報
【主張】
論点に対し、自分はどうしたいか、どう考えているか
【選択肢】
主張以外の選択肢がある場合は、どんな選択肢があると思ったか
【根拠】
主張がよい理由(選択肢がある中で主張を選んだ理由)は何か

しかし、文章だけでは伝わりづらい情報もあり、時間はかかるがビジュアル(図表)を積極的に活用するとよい。パワーポイントによる資料作成は、苦手な人もいると思うが、普段から何でもよいので書き慣れておくことも重要かと思う。

②Web会議が終わった後に疑問があれば、確認を早めにためらわず行う

テキストとビジュアル情報を組み合わせ、コミュニケーションは万全にしたつもりでも、話がこじれてしまうリスクを100%回避することは難しい。

その時には、チャット以外のツールも選択肢として考えるべきであり、「Web通話、直接の電話をためらわず行う」ことを意識した方がよい。特に、テキストだけでは感情や細かいニュアンスを伝えるのが苦手で、誤解を与えがちだと悩んでいる人は積極的に活用することをお勧めする。

③Web会議では表情を豊かに、声による相槌を意識する

個人的な経験であるが、4人以上のWeb会議になると、どうしても「話していない人」の状況がわかりづらくなる。そのため参加者は、うなずく・返事をする・笑うなど、感情を伝える動作を積極的にするようにしたい。通信によるタイムラグは生じるが、少しオーバーにした方がいいと思う。

相手から自分がどう見えているかを意識し、「ちゃんと聞いている」、「ちゃんと考えている」ことを表情や仕草で伝えることが大切というわけだ。

④ネガティブな指摘をチャットで行うのは極力避ける

チャットでのコミュニケーションの難点は、口頭に比べるとどうしても「冷たい印象」が出がちなところ。短文で表現できる利点は持っているが、難しい点である。

またチャットは、文字でずっとデータが残ってしまうため、後から見返した際に「思い出しネガティブ」になってしまったり、キャプチャを取られて他の人に流出してしまったりする懸念もある。同様にリモートコミュニケーションでも、業務上のネガティブな指摘についてはチャットではなく、電話・Web会議で行うことが重要である。

⑤「1 : 多」ではなく、「1 : 1 : 1…」のコミュニケーションを意識する

Web会議においてよく課題になるのは、「リアル会議室の参加者」と「リモートの参加者」との温度差や情報格差が生まれやすいことがある。

例えば、4人がオフィスの会議室におり、1人がリモートで接続していると、どうしてもリアル会議室にいる4人だけで議論が進みやすく、リモートの参加者は議論に参加しづらくなってしまう。

このような状況を防ぐには、「1 : 多」の状況を避け、「1 : 1 : 1…」のコミュニケーション設計をする工夫が必要。先ほどの例であれば、オフィスにいる4人は、あえて会議室に集まるのではなく、自席からそれぞれつなぐようにしてみるとよい。そうすると、物理的にはオフィスに4人、リモートで1人だとしても、会議の場においては全員がフラットな立場でコミュニケーションができるからである。

4.在宅勤務におけるテレワーク環境でオン・オフを作る

在宅勤務のメリットは多数あり、コロナ禍における対策としては重要なものである。しかし、テレワークをしていくことが日常となり、オン・オフの区別がつきにくくなるため健康上の問題も発生していると聞いている。次の4つのことは自分が実際に行っているものであるが、よければぜひ実施してほしい。

①仕事専用のスペースを作る

最近、Webカメラで映る背景や、仕事コーナーにカーテンを設けている方が増えてきた。ぜひ、仕事専用の部屋を意識してほしい。可能であれば仕事のスペースに専用のデスクがあるのがいいが、現実的には難しい。

要は必然的にオン・オフの切り替えができるようにする環境が大切ということである。また、退勤後にはスマートフォンでメールやチャットを極力見ないようにするなど、意識的に業務時間とプライベートな時間を切り分けるように工夫してみる。

仕切りができない場合は、カーテンのようなもので一時的に仕切ってみるとか、Web会議中は意識して専用スペースを作ってみるのもいいと思う。

②服を着替える

業務時間中は、Web会議もあるため比較的フォーマルな格好をしている方が多いと思うが、逆転の発想で、業務終了とともにリラックスできる服装に着替えることで、身体にオン・オフの切り替えを覚え込ませるといったアプローチも有効。ここはあえて意識して行動することが大切なのである。

上半身のみフォーマルも悪くはないが、意識して服を着替えるのが大切であることを理解してほしい。要は「オン・オフ」のきっかけを作ることが大切なのである。

③業務開始前のルーチンを設定する

オフィスへ出勤する際は「身支度を整える」「家を出る」「電車に乗る」「会社に入る」などの一定のルーチンがあるため、必然的に仕事モードへ頭が切り替わっていた。僕は仕事を開始する前に水を買いに行ったりしたものだ。

一方、リモートワークでは、これらを意識的に行う必要があり、できる範囲でいいので実行してほしい。例えば、業務開始前に「朝の30分間読書をする」「コーヒーを1杯飲む」といったルーチンを設けることで自然とオン・オフを切り替えられるようになる。

④デスク以外の場所で昼食や夕食を取る

長期的なリモートワークで成果を上げるためには、適切にオフの時間を設けることが重要。
そのため、昼食や夕食などの休憩時間は、業務と切り離した、極力リラックスした環境で取るようにした方がよい。これは外に気分転換目的で出るだけではなく、オフの時間を同じ場所で過ごすのを避け、メリハリを作る目的にもなっているからである。

「つい休憩時間もメールやチャットを眺めてしまう」といった方は、特にこの点を意識するようお勧めする。僕は家の近くにコンビニがあるため、買い物に行くようにしている。

5.テレワーク環境によって生じたストレスを軽減する具体的な方法

新型コロナウイルスにまつわる外出自粛や環境の変化によって、メンタルヘルスのリスクが高まる中、最低限知っておきたいストレス対処の基本をお伝えする

実は、今は元気でも、一定期間ストレスがかかり続けると数ヶ月後に心身へ不調が現われるケースが多いため、自身の些細な変化にも気付けるようにしておくことが大切なのである。次の6つの点を意識してみてほしい。

①自分に対して寛大になる

物事が思い通りに進まなくても、自分を責めないことが大切である。「できない」、「してはいけない」と、自分に制約を設けすぎることもストレスにつながる。

同様に「今できることを楽しもう」「コロナウイルスが終息したら、これをやろう」というように、前向きに現状を捉える意識を持つことが大切なポイント。

②睡眠と食事を十分に取る

眠りの質を高め、体内時計を正常に保つことは身体の免疫力を高め、ストレスの緩和効果も期待できる。ぬるめのお湯につかって体を温めることで副交感神経が優位になると、寝つきがよくなるためお勧め。また、気持ちを落ち着かせようと、お酒やたばこ、薬物に頼りすぎないようにすべきである。できそうでできない普通の生活を意識することも、必要なのである。

③部屋の片付けなど簡単にできることをやる

時間がある時に家の中を片付けることは「生産的な行動を取っている」、「行動を管理できている」と実感するためのいい方法。僕の体験だが、以下の通り。

・クローゼットの整理
・家具の変更や模様替え
・やりたかった〇〇を一気にやる(映画、本、ゲームなど)
・ビジネス書で自分磨き
・趣味を振り返る

④ネガティブなニュースを意識的にシャットアウトする

心理学において、ネガティブで暴力的な報道は、深刻で長期的な心理的影響を与えると言われている。特に、被害が強調され、感情的な内容を多く含む情報は、自身の不安をより脅威的で深刻に感じさせる。また、日頃を取り巻く様々な出来事がネガティブなものだと認識する傾向が強まる可能性も指摘されているので継続して見るのはやめた方がいい。

⑤信頼できる人と話す

危険に直面し、悲しくなったり、ストレスを感じたり、戸惑ったり、怖くなったり、怒りがこみ上げてきたりするのは、ごく普通なこと。信頼できる人と話すと、気持ちが楽になる。遠方の家族や友人とのメール・電話、同居する家族との関わりを大切にするべきである。

⑥事実を確認する

人間は、わからないことや見通しの悪い状況に強い不安とストレスを感じる。現在、新型コロナウイルスの事実に反するうわさが、日本だけでなく世界でも広まっている。不安を過剰にあおるような内容もあるので、自分や家族が見たり聞いたりする時間を減らすことで、興奮を抑え、一喜一憂させられないよう努めて欲しい。

まとめ

今回のテーマは、テレワークによるコミュニケーション不足解消と、メンタルヘルスケアについて経験談を中心に解説してきた。テレワークやWeb会議の環境作りについてはその会社特有の事情があり、情シスは、新たなテレワークシステムの整備だけでなく事業運営がうまくいくための対策などに関わってほしい。

特に、テレワーク環境でのコミュニケーションは、今まで通りのやり方では、うまくいかない。対面での会話の中で自然に交わしてきた「雑談」や、「余談」などを重視することが必要である。これらはニューノーマル社会での重要な課題かもしれない。メンタルヘルスケアについても、コミュニケーション不足を解消させれば、改善のひとつになることを信じている。今後も情シスの皆さんと一緒に考えていきたい。

熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

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