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「ソロ情シス」が生まれる背景と課題? ~経営面で意識すべき対策

情シス
熱海 徹 氏
ソロ情シス
この記事の内容
1. 様々な企業に存在するリスク、「ソロ情シス」
2. 「ソロ情シス」が生まれる背景と、それにより出てくる問題
3. システム業務が属人化することによる課題
4. 経営面で意識すべき対策
5. まとめ

1. 様々な企業に存在するリスク、「ソロ情シス」

「ソロ情シス」とは、企業内に情報システム担当者が1人(あるいは少人数)しかいない状態を表す。組織人員も少ない企業は、ソロ情シスの存在は珍しくはないが、社員が100人ほどの中堅企業ですらソロ情シス体制だと聞いている。

問題にすべきことは、業務形態が24時間365日のサービス提供が普通になっており、情シスも同様に24時間365日稼働していることが「当たり前」と考えられていることだ。利用者側は、ソロ情シス業務の課題を意識することはほとんどなく、情シスにとっては、情報セキュリティや、運用業務に加えて、加速するクラウド移行やDXへの取り組みなどもあり、業務負担が益々重くなっている。

本日のコラムは、ソロ情シスが生まれる背景から、経営面の課題と意識すべき対策について語りたい。経営に携わる方はぜひ、読んでほしい。

2. 「ソロ情シス」が生まれる背景と、それにより出てくる問題

そもそも、なぜソロ情シスという体制が生まれてしまうのか。
ソロ情シスが生まれる背景には、担当者が高い業務負荷を感じていることがあるのではないか。

現場を見てみると、従来の運用管理だけでなく、テレワークの導入やクラウドサービスへの移行、情報セキュリティ対策、そして先端技術の専門的な知識の習得など、通常業務に加えて多様化する業務に限界を感じている声を多く聞く。いろんな業務ができるメリットは感じるが、本来やりたかった仕事から遠ざかっていることになる。

結果的には、「割に合わない」、「負荷がかかりすぎる」、「将来的にも負荷の軽減が期待できない」、「人事の評価の基準がわかりにくい」といった声が上がり、情シスを取り巻くこれらの状態が原因で職場を離れることが起きている。

もう一つの原因は、人材確保が難しいだけでなく、企業側が抱える「兼任」という業務スタイルである。

例えば、情シスの業務を、「コンピュータに詳しい人物」が通常業務と兼任しているところが多い。「兼任」という言葉は、一見マルチに仕事ができる人材をイメージさせるが、個人的には、経営層の「企業にとっての情報システムに関する重要性への意識の低さ」を感じる。人材不足が社会問題ではあるが、人事評価基準の見直しなど、企業側の努力も必要なのである。経営者はもっと理解してほしい。

次に、ソロ情シスの問題点について話したい。
経営者は、担当者の業務負荷が大きくなることで、企業のシステム運用管理を安定して稼働させることが難しくなることに気付くべきである。

例えば、担当者は企業システムの通常運用・監視に加え、システム導入の検討やベンダーとの打ち合わせ、実際の導入作業と導入後の社内サポートなどを同時に行わなければならない。それに、スケジュールを立てていても、トラブル発生が加われば優先順位が変わり、思う通りに進まない。問題は、このように業務負荷が大きくなっている状態が、突発的なものでなく慢性化していることである。

また、コロナ禍の中、テレワークの導入でデータ量や、社外からのシステムへのアクセスが増えたことに加え、従業員のPC・タブレットなどデバイスに対するセキュリティ強化が必要になってきた。データ・システムの可用性維持、不正アクセスへの対策など、対応が必要な範囲が広がっている。しかも、適切な対策に手が回っていないでは済まされない状況なのである。

このように、情シスの仕事量は増える方向にあり、担当者のストレスも高まっている。担当者は、社内外のどこに相談しても解決が難しいと判断し、相談もできず、ソロ情シスは一層孤立し、ソロ情シスが生まれる原因を強めているのではないだろうか。

3. システム業務が属人化することによる課題

システム業務が属人化することによる課題

ソロ情シスに限ったことではないが、情シス業務の現場では、システム業務が属人化してしまうという課題を抱えている。特に、「この人がいなければ解決しない」という状況は致命的だ。

最近起きているシステム障害も、設備の不具合に対応できる担当者がいなかったためにシステム対応が滞ったものが少なくない。例えば、システム障害やネットワーク障害が起こった場合、ソロ情シスの担当者が不在だと復旧方法がわからず、すべての業務がストップしてしまうリスクがあることに気付いてほしい。

また、テレワークで外部からデータにアクセスができない場合、早急な対応ができず業務が滞ることが考えられる。実際何かが起きて気付くことは少なくない。ソロ情シスにならざるを得ない企業事情はあるが、システム管理が属人的になってしまうことは、経営面でのリスクであり、改善すべき課題として十分に認識してほしいところだ。

この問題は、情シス担当者個人の問題ではなく、情シス業務を1人で運用している結果であることを理解してほしい。

4. 経営面で意識すべき対策

ソロ情シスで生まれるリスクが、企業にとって重要であることをお伝えしてきた。ここからは、どのようにして改善できるのかをお話ししたい。

まず、情シス担当者が意識すべきことは、「業務量の可視化」である。「1人でできる」と、「1人でやる」は別物であり、可能であれば支援してくれる外部業者を見つけることが対策の一つではないだろうか。人材確保が難しい状況であればあるほど、適切に相談できる支援事業者の利用は有効であると思う。

会社の事情や経費面での負担が大きいと思うが、情シス担当者からも必要なサービスのアウトソースを経営者側に提案し、会社の安全・安心なシステムの運用体制を作るためにも実行してほしい。ソロ情シスの負担が大きく解消されるだけでなく、より大きな付加価値を出すための時間を取れるといったメリットが生まれるはずだ。

例えば、運用支援について、MSS(マネージド・セキュリティ・サービス)を使うことをおすすめしたい。情シスはすでに多くのツールを使い対策をしているが、サイバーセキュリティに関しては、インシデント対応だけでなく、再発防止の観点からもしっかりした計画を立てる必要がある。そして、企業としてはセキュリティポリシーの観点から対策基準を制定し、運用していくことが重要とされている。信頼できる事業者を利用することは、会社の財産を守る手段として考えるべきなのである。

5. まとめ

「ソロ情シス」は、企業が抱える課題であり、情報システム基盤の脆弱性の一つとして考えるべきだ。さらに、情シス担当者の事業への貢献度を高めるためにも、社外のリソースを積極的に活用してほしい。業務負荷を軽減することで、情シスはビジネスへの貢献度を高め、本来の能力をフルに発揮できるはずだ。システムの安定運用を目指し、継続的に実施していくためにも、情シス業務をソロで実施することは経営リスクとして捉えてほしい。また、社外リソースの活用は、離職抑制、人材確保の観点でも効果が期待できるのではないだろうか。

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熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

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