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組織やチームで取り組むヒューマンエラーの抑止術

情シス
熱海 徹 氏
この記事の内容
5つの原因で探るヒューマンエラーの抑止術
管理者は、現場を見ることで「観察力」を養い「信頼感」を築く
キーパーソンを知っていることも復元力の一つ
組織やチームで取り組むヒューマンエラーの抑止術
まとめ:ヒューマンエラーを限りなくゼロに近づける

5つの原因で探るヒューマンエラーの抑止術

今回は、一人ひとりが日常的にできる対策について考えてみたい。ミスを防止するには、原因を把握し、防止策を立てるのが基本。 前回の記事「①ヒューマンエラーの発生をゼロに近づける視点」 で話をしたヒューマンエラーの5つの原因に沿って進めていきたい。

① 思い込み、判断の省略:

思い込みは結構厄介である。特別なトリガーがなければ疑いもしないので修正するタイミングが存在しない。どういうタイミングで発見できるかではなく、ルーチン作業の中で自ら異変に気付くか、誰かに気付いてもらうしかない。まずは全てを疑ってかかることも冷静な判断につながるかもしれない。同僚の中に、作業していると、「なんか変?」と言う者がいた。口癖のようだったが、結構当たっていたので救われたことが多かった。

② 注意転換の遅れ:

体調が悪かったり、心配ごとがあったりすると、誰でも集中力が低下する。冷静に判断し、いつも通り正常に作業が行えるよう万全の体調で業務に臨むのは当然の務めだ。だが、意外に体調管理の問題も無視できないものである。無理をしてでも作業優先を考えるが、このような状況では、躊躇せずに周りに相談することが大切。他の人に代わってもらったり、時間を短縮したりするなど調整をしてもらうことが対策の一つかもしれない。

このような場合、管理者は決して本人を責めたり迷惑そうな顔をしたりせず、むしろ、「ミスを未然に防止できてラッキーだ」と考えればよいのだ。リスク対策は、早め早めの対応が決め手となるわけだ。

③ 習慣的操作:

「無意識に」「安易に」「反射的に」やってしまう人は、同じ間違いを繰り返したり、パニックになってミスを重ねたりしてしまいがち。なぜか「慌てる人、そそっかしい人」は、ミスが習慣化している。しかし、予期せぬことが起きて慌ててしまった時でも、落ち着きを取り戻せる手段があればミスの連鎖は防げる。普段から意識して、パニック回避術を身に付けておけばよい。

予期せぬことが起きた時に判断することは「作業を中止するか、継続するか」になると思うが、判断するまでの体の動きが問題となる。しかしながらこれは、正直、訓練しか方法はない。前職は秒単位の処理を行う機械を扱っていたので、判断の速さを鍛えるのは「訓練」を繰り返すのみだった。

また、野次馬的な人、または通りすがりに参加する者により、集中していた環境を取り乱されることでエラーにつながったケースを目撃している。対策としては、割り込みが入る環境をなくすため、職場内の人間の通り道(導線)を変えたり、電話の位置を変えたりするなど、周囲の環境から問題を起こさない工夫を行ってきた。

④ 判断の甘さ:

作業は手順書をもとに進めているため、要所要所で進めるべきか判断をしている。わずかな違和感や、何かいつもと違うなど、あいまいな状況の場合、このまま進めるか、やめるかの判断は難しい箇所がある。

工事における判断は、事前に準備されているが、進捗状況による判断は臨機応変となる。確実に言えることは、時間の余裕が左右する。作業自体に無理があれば、元の状態に戻すリスクもある。チェックポイントを作り、状況判断を早めに共有することが大切である。

⑤ 情報収集の誤り:

情報の中身を理解できない時や納得できない時は、複数人の目で見て考えることで、ミスの発見が早くなる。全てに共通していることは、職場のルールを守り、手順書に沿って業務を遂行すること、「ルールを破らない」ことが一番の抑止術になる。

それぞれの役割で、分担することを大切にして欲しい。そのような取り組みは、普段のコミュニケーションや、お互いの信頼関係が大切になってくる。成功の鍵はルール厳守なのである。

管理者は、現場を見ることで「観察力」を養い「信頼感」を築く

「仏の顔も三度」ということわざがあるように、管理者は部下による同じ失敗を三度まで受け入れる寛容さを持ちたいものだ。いつも自分に言い聞かせていた。「人間は間違えるものだ」という認識を職場内で共有し、ミスした当事者を責めない空気を作ることは、管理者にしかできない。また、感情的に怒ることのない冷静さ、冗談やダジャレには笑ってあげる余裕も必要。

僕が実施していたことだが、職場内を巡回する時は、意識してゆっくり歩いた。部下一人ひとりに積極的に声を掛け、業務だけでなく体調についても気を配り観察していれば、業務の不調や体調不良で顔色が悪いことに気付くことができる。こうした積み重ねが信頼感を生み、そのうち部下の方から話しかけてくるようになり、病気や悩み、家族の心配ごとも打ち明けられるようになる。

社員や職場のわずかな変化や違和感に気付くには、現場の日常を繰り返し見ることで「観察力」を養い、「信頼関係」を築くことが肝要なのである。管理職は、いつも偉そうにしていてはだめなのである(個人の反省!)。

キーパーソンを知っていることも復元力の一つ

エ職場内の作業の流れ、人間関係、社員の特徴を知ることは、いざという時に大いに役立つ。そして、エラーが発生した時は、重大な不具合や事故にならないよう正常に戻す復元力が求められる。

例えばシステム障害の場合は、「エラーによる影響調査を優先するか」、「一刻も早く正常な状態に戻すか」、迅速な判断が求められる。調査を優先すれば、重大な事故に陥る危険もある。協議する時間も人員も限られた中で、難しい判断を強いられるわけで、この時、管理者に必要なのは、判断力と決断力、そして社員のスキルに関する情報だ。職場観察で得た情報が「いま誰にどう指示すれば、上手くいくか」を教えてくれるのだ。

管理者は、その“誰か”に指示するだけ。後は社員同士で知恵と技能を集めて解決に向かう。このキーパーソンを知っていることも復元力の一つと言えるのだ。そのため、スキルバランスを勤務管理上でも可視化しておくとよい。どんなことができて得意なのかを全員がわかるようにしておくのもよい。

下の図1は、エラーが発生してから正常な状態に戻すことを優先すべきであって、障害箇所の原因追及に時間を使いすぎると、さらに大きな事故が起きてしまい、異常事態から抜け出せなくなることを表現している(経験上の話)。

図1

組織やチームで取り組むヒューマンエラーの抑止術

ヒューマンエラーは、日常的に頻発しており会社にとって非常に大きな損失をもたらす危険をはらんでいる。ここまでは、現場や管理者の観点からヒューマンエラーを抑止するポイントを挙げたが、以降は組織やチームでは何をすればよいのか、エラーの抑止術について実体験を紹介したい。

①  作業工程を見直す

まず言いたいことだが、順守できないルールはやめる決断も必要である。そして、ルールが順守されないことによって事故が発生した場合、当事者だけに責任を押し付けてはいけない。

管理者は、そのルールが現状に合っているか、本当に必要なのかなど、さまざまなケースを勘案したうえで、順守できないルールはやめる決断も必要になる。ヒューマンエラーが生じた時に「個人の資質の問題」として片付けられてはたまったものではない。ぜひ、組織が抱えている問題点と背景を探ることを忘れないで欲しい。

②  作業手順書はシンプルでわかりやすい方がいい

ミスやヒヤリハットが多発している作業は思い切ってやめてしまうのが一番いいのだが、現実的にはそうはいかない。そこで、作業のやり方を大きく見直すことを提案する。元々はシンプルだった作業手順も、設備の追加変更などで複雑化している場合がある。一度の変更は小さくても、積み重ねることで不自然な手順を当たり前のように行ってしまっている。どんな作業も個人の能力や性格、多少の体調不良にも左右されることなく正確に行える手順でなければいけない。

下の図2は作業手順書の例だが、慎重に対応すべき部分にコメントを付け加えたものだ。ヒヤリハット事例をここに活かしている。

図2

③  マニュアルが読めて、システム図面が理解できれば、緊急時に慌てない

「マニュアルは必要な時に読むもの!」かも知れない。しかし、いざという時に読めるだろうか。どこに何が書いてあるかは、目次を見ればわかるが、実際の使い方は結構わかりにくい書き方になっている。内容が省略されていたり、別の冊子にジャンプしたりするので、一度は読んでおくことをお勧めする。また、更新されたマニュアルなど、古いページが混在していると事故につながる可能性がある。

僕はマニュアルを覚えたら利用しないのではなく、チェックシート的に、操作手順を表記し、以下の3種類を準備して使用していた。当時は赤いバインダーに入れて運用していた。

A.研修、習得用(設備の操作をマスターするときに使う)
B.日常運用時用(毎日の運用時に使う)
C.特別運用(年1回対応や緊急対応に使う)

3種類の書き方は共通しているが、マニュアルになるまで、資料を使ってミニ勉強会を繰り返し行い、全員が受講したらマニュアルとして製本していた。

Aは主に研修用で使えるもの。新人や転勤者が各自コピーして勉強するためのマニュアルとなっている。Bは日常業務に必要なのであるが、覚えることでエラーを起こす可能性があるため、チェックシート形式で書かれている。その日の担当者はコピーしたものを持ち歩き、使用するのである。Cは年に1回の運用など、特別な操作をする場合のマニュアルである。例えば、夏の高校野球中継の対応などである。

ここで、マニュアルにはシステム図面の抜粋が出てくるが、その部分だけを覚えるのではなく、皆さんにお勧めするのは、ぜひネットワーク図面、配線図面に目を通していただきたい。緊急対応時も慌てないで対処できるようになるからである。

④  気になることはメモを取り、メモの確認作業をルーティン化せよ!

作業手順もマニュアルもわかりやすくなれば、初心者からベテランまで誰もがこれをルーティンとして身に付け、平常心で業務に当たれるようになる。気持ちに余裕が生まれ、作業上の問題点などに気付くこともできるようになる。大切なことは、「作業中に気になった項目を必ずメモに書き、作業後にメモを確認する」ということだ。これを手順書に盛り込みルーティン化できれば、個人の“気付き”が職場の問題点の早期発見、改善につながり、ミス発生の確率が格段に下がるはずだ。

⑤  チェック体制を強化する

チェック体制の強化は、人数を増やすことではない。複数の目を通して行ったとしても、ヒューマンエラーが起こらないとは限らない。そのためチェックリストを導入・利用するような習慣が必要になってくる。

このように、重要な作業は2人以上の職員を通して行い、必要であればチェック体制を強化する。特に、作業開始時、昼休憩前、終業前の担当者交代時はミスが起こりやすい時間帯なので厳格なチェックが必要。何かが終わる時、始まる時は、一斉に担当者をチェンジするのではなく、誰かはオーバーラップするようなスタイルがベストである。

⑥  経営トップの意識改革

今や、人・モノ・業務の外注化、委託化が当たり前になり、一企業が社員の努力だけで自社の安全を守るのは難しい時代。現状では安全対策と効率化がトレードオフの関係になっているケースが多い。経営トップに必要なのは「組織にとっては安全が最優先」という意識を持ち、「安全を優先するためにかけるコストは惜しまない」という文化を企業内で醸成することが大切。

⑦  ミスを起こしにくい職場環境づくり

どんなに完璧な人でも体調が悪かったり集中力が低下したりすれば、ミスを引き起こす可能性が高まる。この可能性を極力低く抑えるために、組織としての環境作りも非常に重要。

例えば、体調不良の人がいれば、別の社員がすぐにサポートに回れる体制を作るとか、集中力を高く保つために業務の切れ目、節目に合わせて適宜休憩が取れるようにするなど、人にやさしい仕組みと雰囲気を作ることが大切。わずかな違和感や小さなミスをいち早く発見するのは整理整頓から始まる(すごく大事)。

まとめ:ヒューマンエラーを限りなくゼロに近づける

ヒューマンエラーをゼロにする特効薬はないと思う。しかし、予防策はいくつもある。僕が思う最大の予防策は、職場の中にある個人や組織の問題点を、たとえそれがささいなことでも見過ごすことなく丁寧に拾い上げて解決していくことだと思う。そのためには、担当者一人ひとりが思っていることを率直に言える環境が必要なのである。

読者の皆さんには、他人のミス、他社や異業種での失敗を見聞きした時に「なぜそうなったのか」、「防ぐ方法はなかったのか」と考える人になっていただきたい。そのような意識を一人ひとりが持つことで、ヒューマンエラーは限りなくゼロに近づくと考えるからだ。

あとは、簡単なところで言えば「整理整頓を心がける」ことである。たとえボールペン1本でも次に使う人のことを考えて必ず元の位置に戻すようにして欲しい。普段から整理整頓を心がけることで、いつもと違う光景に気付くことができ、状況の違いを体感することで事故を未然に防止する感覚が身に付くということである。

対策についてたくさんまとめてみたが、どの部分からでもいいので試して欲しい。そして、起きてしまったことだけを問題にするのではなく、「どうしたら事故に気が付くか」について話し合って欲しいと思う。

熱海 徹(あつみ とおる)氏

■著者紹介■

熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住

40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。

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