情報システム部門の皆さん、そして陰ながら支えてくれる皆さんへ。このコラムは、情報システム部門が企業のヒーローになるための道を共に探るためのものです。現状の課題を乗り越え、組織の中で輝く存在になるための具体的なステップを提供します。
時代とともに変化してきた情シスの役割
①情シスの変化
わたしがコンピュータを始めて触ったのは、1982年に大学に入った時でした。以来42年にわたって、何らかのかたちでコンピュータシステムに関わってきましたが、その間、"情報システム部"の役割は大きく変化してきました。
わたしが大学に入った頃は、大企業がホストコンピュータを使っていた時代なので、情シスはホストコンピュータを専門に扱うエンジニアだったようです。
その後パソコンが登場してワープロに置き換わったり、ネットワークが使えるようになって、企業がサーバーを持つようになったりして、"情報システムの役割"もそれに合わせて変化してきました。
②現在の情シス
現在はITインフラの管理・運用をコア業務として、セキュリティ管理やユーザーサポートなどをこなし、企業によってはさらにシステム開発やDXなどに取り組んでいるかもしれません。
ただ、ここ20年弱で様々な情シスの担当者と仕事させていただく中で感じる変化は、担当者の方の在職年数が短期化しているということです。
以前は「もう10年以上この会社で仕事しています」という人が結構いたのですが、最近は、「昨年転職してきました」とか、「つい数か月前に転職してきました」という方が増えたという印象です。これは情シス担当者の流動性が高くなったとも言えますが、情シス業務のノウハウや情報が失われたり、情シス部門の社内での地位低下につながりかねないとも言えます。
③情シスの可能性
一方で、老舗大企業の不祥事報道や、組織の劣化が表ざたになったりするなど、組織の強化が必要となるなかで、デジタルに着目したDX(Digital Transformation)、人に着目した組織開発、最新技術としてのAIの活用に注目が集まっています。
わたしは、情シスこそが、こうした改革トレンドをリードして、会社や組織を輝かせるヒーローになるべき部門だと考えています。
情シスが会社のヒーローになる道とは
考えてみてください。人事や経理以外で全部門を横断して業務を行う部署が他にどれだけあるでしょうか?今やあらゆる業務がシステムに依存する中で、そのシステムを支えているのは情シスではないでしょうか?組織の血流たる情報プラットフォームを支えているのは情シスではないでしょうか?
今こそ、情シスは会社における立ち位置の優位性を生かして、会社のヒーローを目指しませんか?
とはいえ、「人手不足で現状すら手が回っていないのに、そんなことをする暇などない!」とただちにお叱りが飛んでくるのが目に見えるようです。
本コラムは、”情シスが会社のヒーローになる”ための道を一緒に考えていくためのものなのです。
情シスが会社のヒーローになるプロセスの全体像としては、以下のような内容を考えています。(かならずしもこの順番ではありません。)
それぞれ簡単に内容を紹介します。
1.チームの結束を固める
情シスが会社のヒーローになるためには、情シスのチームとしての結束が欠かせません。単に作業を分担するのではなく、共通目標を掲げつつ役割を分担し、つねに協力関係をもてるようなチームビルディングに向けた施策を、今後のコラムの中でいくつか紹介したいと思います。
2.トップの理解を得る
情シスが会社の発展を加速する存在になるということをトップに認知してもらわないと、ヒーローへの道は閉ざされます。予算はつきませんし、人は増えないし、何なら作業を効率化するとその分、人を減らされてしまいます。
トップを説得するためのロジックを考えていければと思います。
3.業務の棚卸・整理をする
目的は、まずは自分たちを振り返ることです。単に業務をリストアップするだけではなく、その目的・フロー・関係者・工数等も整理しましょう。そのうえで、本当にそのタスクは必要なのか、自分たちがやらなければならないのか、外注化できないか、などを検討しましょう。
棚卸の事例や整理方法を考えたいと思います。
4.業務内容を発信する
情シスの業務は、他の部門からの依頼によるものも多いのではないでしょうか?ただその依頼が、無理な短納期を言われたり、必要な情報がなかったり、本来情シスの範囲外だったりすることはありませんか?
その多くが、情シス業務に対する他部門の無理解が遠因である場合が多いのではないでしょうか?情シス業務の内容や、依頼の仕方などを普段から発信することで、摩擦を減らし業務をスムーズに進められるようにできたらと考えています。
5.部門間の交流を促進する
組織は、大きくなればなるほどサイロ化 がすすみ、他のグループや他部門が何をしているのかがわからなくなるものです。部門をまたいで情報をにぎるのは、一握りのトップだけだったりします。
同じ会社の中で部門同士の距離が開けば、会社としての一体感がなくなり総合力が発揮できなくなるばかりか、組織としての柔軟性が低下し、不祥事の温床になったり、離職の増加につながったりすることがあります。
これを改善するには組織風土改革が必要ですが、トップが号令をしただけで簡単に変わるものではありません。そこで、全部門の現場にパイプを持つ情シスこそが、部門間交流の促進を通じて組織風土改革に貢献できると考えています。
6.情報プラットフォームを整備する
今や会社の情報プラットフォームは、ポータルサイト、電子メール、ファイルサーバー、スマホ、クライアントPC、Chat、Web会議、など多岐にわたります。これらはもともと情シスの業務範囲であることが多いですが、使い方はユーザー任せであることが多いのではないでしょうか?
使い方がバラバラのままでは、情報の蓄積や活用がうまくできず、会社のナレッジ基盤としての価値が発揮できません。今後AI時代を迎え、会社に蓄積された情報をいかにAI-Ready にできるかが、会社の浮沈を左右しかねないのです。
このテーマは範囲が広く、奥が深いので、複数の視点から議論のきっかけを提案できればと考えています。
7.AI活用を推進する
みなさんは、生成AIをどのくらい使ったことがありますか?ちょっと使ってみたけど、思ったような回答が得られず、まだ使えないと判断してその後は使っていないということはありませんか?
確かにうまく問いかけをしないと思ったような回答が得られませんし、誤った回答が返ることもあるので注意は必要ですが、個人の実感として今後はあらゆるオフィスワーカーに利用が求められると感じています。
情シスは会社の情報リテラシーリーダーとして、組織のパフォーマンスの底上げに向けたAI活用支援ができる最適なチームなのではと考えています。
8.現場との共同プロジェクトを推進する
現場が何らかのプロジェクトを起こす際は、情報プラットフォームを管理する立場から積極的に支援してはどうでしょうか?
いまやどんなプロジェクトでも、コミュニケーション管理、情報管理、情報セキュリティは必須の管理項目であり、それらについての効果的な支援は、プロジェクトのスムーズな推進につながり、会社への貢献は大きいはずです。
9.BCPとしての情報セキュリティを強化する
情報セキュリティは情シスのアキレス腱です。ここまでやれば大丈夫という基準が無く、ひとたびインシデントが発生すれば膨大な作業が発生し、脅威は日々増大しつづけ気の休まる暇がありません。
にもかかわらず、情報セキュリティの難点はトップやユーザーの理解を得るのが難しいことではないでしょうか?
そこで、私が提案するのは、BCP(事業継続計画)としての情報セキュリティです。昔は、大規模災害はめったに発生しないので、災害に備えて平時に計画を立てるBCPは経営的な緊急度が低く、あまり重視してきませんでした。
しかし、近年大地震や感染症、水害、異常気象など日常的に過去にない災害が発生するようになり、”災害を前提とした事業展開"が経営者に求められるようになってきました。
つまり、災害時も被害を最小限にして速やかにビジネスに復帰できる体制のない企業とは、怖くて取引できないという認識が広がってきたのです。
また、BCPを検討することは、自社の強みの見直しにつながり、事業戦略の強化につながることがわかってきました。そこで、情報セキュリティをBCP視点から整理することで、経営者の理解を深め、社員への浸透を進める方法を考えたいと思います。
10.社外に向けて発信をする
情シス活動が会社の発展に貢献する事例が積みあがったら、是非とも社外に発信しましょう。今は多くのメディアがそうしたコンテンツを求めています。そうした発信は会社のプレゼンス向上に寄与するとともに、求人(新人、中途採用)にも必ず良い効果をもたらします。
今後コラムの中で、具体的な事例やアイデア、課題について考えていけたらと思います。
おわりに ~ご意見お聞かせください~
本コラムの主旨は単に情報やノウハウを伝えることではなく、読者の方からのフィードバックを受けて各テーマの解像度を高め、実践を積み上げていきたいというものです。
皆様の組織ではどのような課題を持っていますか、解決した事例はありますか。コラムの中で是非ご意見を紹介させてください。
▼是非こちらのフォームよりご意見、ご感想をお寄せください。▼
■著者紹介■
村松 真(むらまつ まこと)
出身:東京都稲城市
ひとこと:情シスの皆様に寄り添うコラムをお届けします
Microsoft Top Partner Engineer Award 2023年 受賞
エンジニアとしてのキャリアに加え、経営や組織開発、文書管理、Microsoft の製品知識、情報セキュリティなど幅広い視点で、中堅中小企業のお客様を支援。
大学に入学した1982年からコンピューターにさわりはじめ、社会人になってからはプログラマー、SE、開発管理などソフトウェア開発全般を経験しました。その後日本マイクロソフト社の有償サポートのマネージャを経てソフトクリエイト社に入社しました。
ソフトクリエイト入社後はサーバー構築やクライアントのドメイン移行や運用支援など、インフラ構築系案件のプロジェクトマネージャーとして経験を積んできました。
2019年に中小企業診断士の資格を取得し、コンピューターシステムだけではなく、経営視点や組織開発、文書管理、情報セキュリティなど様々な角度からお客様のソリューション支援を行っています。
長年情シスのお客様と接していて、頑張っているのになかなか報われない姿をみてどうやったら応援できるだろうかと考え続けてきました。
DXによる変革と、AI活用による業務変革がすべてのお客様に求められる現代において、情シスの価値が爆上がりするチャンスが到来しました。
この機を捉えてブレイクする情シスに寄り添うコラムをお届けしたいと思います。