
情シスの業務は多岐にわたり、他の部門からの依頼に応じることも多いかと思います。
しかし、その依頼が無理な短納期であったり、必要な情報が不足していたり、本来の範囲外であったりすることはありませんか?
こうした問題の多くは、他部門が情シスの業務内容を十分に理解していないことが原因だったりします。情シス業務の内容や適切な依頼の仕方を普段から発信することで、業務の摩擦を減らし、スムーズな業務運営を目指しませんか。
1.こんな「理不尽な依頼」ありませんか?
情シス部門の方と仕事をしているとき、こんな話を聞きました。
“午後も少し経った頃、急なユーザー追加依頼がメールで舞い込んだ。翌日には当人が仕事を始めるので、期限は翌朝。でも、提供された情報は名前だけ。権限や所属部署、利用システムの詳細が書いていない。担当者は何度も問い合わせを繰り返すが、応答なし。
深夜までかけて情報を集め、翌朝なんとか無事に完了。”
また、こんな話も…
“営業部門から「来週までに新しいxxxシステムを導入してほしい」との依頼が来た。導入には通常数か月かかるが、営業部は「お客様の要望だから」と無理なスケジュールを押し付けようとしてくる。結局営業部に押し切られて、残業を重ねてなんとか最低限使えるようにした。”
ちょっと極端かもしれませんが、似たようなことを経験した情シス担当者も多いのではないでしょうか?
なぜ、このような理不尽が発生してしまうのでしょう。
私がよく聞くのは、
- そもそも依頼側は情シスが連絡を受けてからどんな手順で何をするかを知らず、そのためどんな情報を伝えればいいかを認識していなかった
- 情シスは外部業者と同じで、ある程度無茶な要求でもリソースを調整してなんとかしてくれると思っていた
というものです。
情シスの地位が高く、無茶な要求は受けないという判断はありですが、それで現場部門の障害になっては本末転倒です。無茶な要求が少なくうまくいっているケースでは、情シス部門が適切な発信を行い、現場部門に情シスの業務内容を知ってもらうことで、配慮のある依頼を促しているようです。
2.他部署の理解を得るために情シスは何を発信するか?
情シス部門が発信すべき内容として意識したいことは、業務の流れや依頼時の必要事項を明確にすることです。
例えば、ユーザー追加やシステム導入の際に必要な情報(担当者名、部署、権限レベル、利用予定のシステムなど)をリスト化して事前に他部門へ伝えることが重要です。
また、システム導入にかかる時間や、緊急対応時の基準などを明確にしておくことで、現実的な依頼とスケジュールの調整が可能になります。
さらに、情シスの役割と限界についても発信し、全社的な理解を得ることが求められます。
発信内容 例1:ユーザー追加依頼の手順
タイトル: ユーザー追加依頼に関する手順と必要事項
概要: 情シスが迅速かつ正確に対応するため、以下の情報を含めた依頼をお願いします。
必要情報リスト:
記入例
件名: ユーザー追加依頼(氏名: 山田太郎)
本文:
氏名: 山田太郎
所属部署: 営業部
役職: 課長
必要なシステム: Salesforce, Teams
アクセス権限: データ入力および閲覧
利用開始日: 2024年7月25日
依頼担当者: 佐藤花子(内線1234、hanako.sato@company.com)
注意事項:
- 情報が不足している場合、対応に遅れが生じる可能性があります。
- 緊急対応が必要な場合は、上記情報を明記の上、電話連絡も併用してください。
発信内容 例2:システム導入依頼のスケジュールとプロセス
タイトル: 新規システム導入依頼の流れとスケジュール
概要: システム導入には準備期間が必要です。以下のプロセスに基づき、余裕を持ったスケジュールでご依頼ください。
プロセス詳細:
注意事項:
- 「お客様の要望で緊急対応」というケースでも、上記の最短スケジュール(6~8週間)が必要です。
- 短縮スケジュールの場合は、機能を絞った導入(MVP: Minimum Viable Product)をご提案する場合があります。
3.実際に行動にしてもらうためにどうやって発信するか?
情報発信の方法は、単に資料を作成して配布するだけではなく、受け取り手にとって分かりやすく、印象に残る形式を選ぶことが重要です。
さらに、併せてフィードバックを収集することも大切です。次に例を紹介します。
①イントラネットや社内ポータルサイトの活用
情シス専用のページを作成し、業務フローや手順、最新情報を随時更新します。
FAQセクションを設け、よくある質問に対する回答を掲載することで、他部門の依頼を効率化します。
②ビジュアル資料の活用
スライド資料やインフォグラフィックを用いて、依頼方法や業務内容を視覚的に説明します。
例:「ユーザー追加依頼の手順」をフローチャート形式で示す。
③動画やウェビナー
業務内容や依頼方法を解説する短い動画を作成し、社内で共有します。
定期的にウェビナーを開催し、他部門の質問にリアルタイムで答える場を設けます。
④メールマガジンやニュースレター
月次や四半期ごとに、情シスの活動報告や新しい取り組み、改善事例をニュースレター形式で共有します。
メールの最後に簡単なアンケートを付けて、他部門の意見を収集します。
⑤現場訪問と直接説明
情シス部門が現場を訪問し、実際の業務に即した説明を行います。
対面でのコミュニケーションを通じて、他部門との信頼関係を深めます。
4.情シスからの情報発信の効果は?
適切な情報発信を行うことで、情シス部門と他部門の関係性や業務の進行がどのように改善されるかを、具体例を交えて説明します。
①コミュニケーションの改善
他部門が情シスの業務範囲やプロセスを理解することで、無理な依頼や曖昧な指示が減少します。
例:以前は問い合わせが頻発していたが、FAQの共有により問い合わせ件数が20%減少。
②業務効率の向上
他部門が適切なフォーマットで依頼を行うことで、対応スピードが向上します。
例:ユーザー追加の平均対応時間が、必要情報を事前提示するルールを導入したことで50%短縮。
③情シス部門への信頼向上
情報発信により、情シスが単なる「サポート役」ではなく、会社全体の成長を支える重要な部門であると認識されるようになります。
例:他部門が情シスにプロジェクト初期段階から相談を持ちかけるようになり、トラブルが未然に防がれた。
④全社的なデジタル化推進
情報発信を通じて、全社員がツールやシステムの利用方法を理解し、デジタル化の流れが加速します。
例:新しいチャットツール導入時の利用率が、導入直後から90%に達した。
⑤情シスの負担軽減
他部門が情シスの役割を理解することで、情シス部門が「便利屋」のように扱われる状況が改善されます。
例:本来の範囲外だった依頼が20%減少し、情シスが戦略的業務に集中できる時間が増えた。
適切な情報発信は、情シスの負担軽減と他部門の協力的な姿勢を引き出す重要なステップです。情報発信を通じて情シスの認知度を高めるとともに、業務への貢献度を向上させ、情シスをヒーローにするステップを加速させてください。
おわりに ~ご意見お聞かせください~
本コラムの主旨は単に情報やノウハウを伝えることではなく、読者の方からのフィードバックを受けて各テーマの解像度を高め、実践を積み上げていきたいというものです。
皆様の組織ではどのような課題を持っていますか、解決した事例はありますか。コラムの中で是非ご意見を紹介させてください。
▼是非こちらのフォームよりご意見、ご感想をお寄せください。▼
■著者紹介■
村松 真(むらまつ まこと)
出身:東京都稲城市
ひとこと:情シスの皆様に寄り添うコラムをお届けします
Microsoft Top Partner Engineer Award 2023年 受賞
エンジニアとしてのキャリアに加え、経営や組織開発、文書管理、Microsoft の製品知識、情報セキュリティなど幅広い視点で、中堅中小企業のお客様を支援。
大学に入学した1982年からコンピューターにさわりはじめ、社会人になってからはプログラマー、SE、開発管理などソフトウェア開発全般を経験しました。その後日本マイクロソフト社の有償サポートのマネージャを経てソフトクリエイト社に入社しました。
ソフトクリエイト入社後はサーバー構築やクライアントのドメイン移行や運用支援など、インフラ構築系案件のプロジェクトマネージャーとして経験を積んできました。
2019年に中小企業診断士の資格を取得し、コンピューターシステムだけではなく、経営視点や組織開発、文書管理、情報セキュリティなど様々な角度からお客様のソリューション支援を行っています。
長年情シスのお客様と接していて、頑張っているのになかなか報われない姿をみてどうやったら応援できるだろうかと考え続けてきました。
DXによる変革と、AI活用による業務変革がすべてのお客様に求められる現代において、情シスの価値が爆上がりするチャンスが到来しました。
この機を捉えてブレイクする情シスに寄り添うコラムをお届けしたいと思います。