
現場部門が実施するプロジェクトに、情シス部門が積極的に関与・支援することで、プロジェクトの成功率を高め、企業全体の発展に寄与することができます。
なぜならば、これまでのお話をしてきたように、情シス部門は現場のコミュニケーション改善やシステム改善に必要な技術と情報を持っているからです。
今回は、具体的にどのように改善できるのかを提案していきたいと思います。
1.現場との共同プロジェクトの重要性
近年、業務の高度化や働き方の多様化に伴い、各部門が独自に業務改善やデジタル化に取り組む動きが活発化しています。こうした中、情シスが現場と協働してプロジェクトを進めることは、単なる技術支援を超えて、組織全体の進化を支える重要な役割を担うことができます。
現場だけで進めるプロジェクトは、視点が部門内に閉じがちで、部分最適にとどまる傾向にあります。一方、社内インフラや業務フローを横断的に把握する情シスは、全社的な整合性や他部門への波及効果などの視点を加えることで、“全体最適”の実現に貢献できます。
また、情シスはシステム導入だけでなく、データの構造、セキュリティ、社内ルールとの整合性といった、現場だけでは見落とされがちな観点も提供できます。
たとえば、Excel 業務のアプリ化では、他部門との連携や将来的なAI連携まで考慮した支援が可能です。
これからの情シスは、「縁の下の力持ち」から「現場と共に価値を創るパートナー」へ変わり、現場との共同プロジェクトは、業務改革を実効性あるものとし、組織の競争力を高める鍵となるのです。
2.情報プラットフォーム管理の専門知識を活かす
現場との共同プロジェクトを成功に導くには、情シスが単なる“技術部門”の枠を超え、全体を見渡すファシリテーターとしての役割を果たすことが極めて重要です。
特定部門の内部の人間がファシリテートを行うより、外部の立場から関わる方が、しがらみや人間関係のバイアスを受けにくく、論理的に進めやすくなります。
以下では、情シスが担うべきファシリテーターとしての具体的な4つの力を紹介します。
①現場の目的を引き出す“ヒアリング力”
現場は「ツールを導入したい」「業務を楽にしたい」といった声は上げやすいものの、真の課題や業務上の目的が明確でないケースも多くあります。情シスは、業務の全体像やITの制約を理解した立場から、現場の本音や背景を丁寧に引き出す“問いかけ役”として動く必要があります。
下記のような問いを通じて、現場が気づいていなかった論点を浮かび上がらせることも、情シスの価値ある支援です。
- 「本当に必要なのはツールか、それとも業務プロセスの見直しか?」
- 「その改善は他部門にも影響があるか?」
②部門横断の視点を提供する力
プロジェクトが実際に動き出すと、現場部門だけでなく他部門や経営層との調整も必要になります。情シスは、全社インフラや情報フローを理解している中立的な立場として、各部門の意見を整理し、合意形成を促すようなファシリテーションが可能です。
技術的な知識だけでなく、「人と人の橋渡し役」としてのスキルが、今後の情シスにますます求められていくでしょう。
③実装・運用設計のアドバイス力
要件が固まった後も、情シスの役割は続きます。システムの選定・設計・導入はもちろんのこと、それを日常業務に定着させるための運用設計や支援体制の整備も情シスの守備範囲です。
つまり、情シスはプロジェクトの“着地”と“その後”までを伴走するナビゲーターでもあるのです。
- 「導入して終わり」ではなく、継続的に使われる仕組みづくり
- マニュアル・FAQの整備や、ユーザーサポートの窓口設計
- 定着後の効果測定や改善提案
④成果を広げる“発信力“
ある現場との共同プロジェクトで成果が出たなら、情シスはその事例を他部門にも展開する役割も担うべきです。
成功体験を組織のナレッジとして横展開することで、「情シスと一緒にやればうまくいく」という信頼が社内に広がります。
- 社内ポータルでの事例共有
- 全社ミーティングや勉強会での発信
- 成功パターンのテンプレート化
情シスは、もはや「言われたことをシステムに落とし込む」だけの部門ではありません。
現場の課題を引き出し、部門間をつなぎ、実現可能な道筋を示し、成功を広げる。
こうした多面的な役割を果たすことで、情シスは現場の“改革パートナー”としての存在感を高めていくことができるのです。
3.情報セキュリティのアドバイスとリスク管理
現代のビジネスにおいて、情報セキュリティは単なるITの課題ではなく、経営に直結する重要なリスク領域です。
特に、デジタル化やクラウド活用が進む中で、業務プロジェクトの多くが“システム”や“データ”を取り扱うようになり、セキュリティと無関係なプロジェクトはほとんど存在しなくなっています。
そのため、プロジェクトにおけるセキュリティの確保は、計画段階から一貫して取り組まれるべきテーマとなっており、全社の情報インフラとデータ管理を担う情シスの関与が不可欠です。
①情シスはセキュリティの“守護者”であると同時に“助言者”
情シス部門は、全社のネットワーク構成・サーバー配置・システム構成・アカウント管理・ログ運用などを把握している唯一の部門であることが多く、情報セキュリティの“全体最適”を考えられる立場にあります。
この視点から、現場主導で進むプロジェクトに対しては以下のような観点で助言を行うことができます。
- 利用しようとしているクラウドサービスにセキュリティ上の懸念がないか?
- 共有しようとしているデータに、個人情報や機密情報が含まれていないか?
- 操作ログやアクセス権限の記録が、運用後も適切に管理されるか?
現場ではこうした観点が見落とされがちなため、情シスが“守りのブレーキ役”ではなく、“安心してプロジェクトを進めるためのガイド役”として機能することで、スムーズかつ安全な推進を可能にします。
②プロジェクトの計画段階からリスクを先読みする
プロジェクトが具体化し、システムやツールの導入、外部ベンダーとの連携などが話題にのぼる段階で、セキュリティやリスクに関するチェックを後回しにすると、最終段階でのやり直しや差し戻しが発生し、コストと信頼の両面で大きなロスに繋がります。
だからこそ、情シスが初期段階から次のような観点で“リスクを先回りして伝える”ことが重要です。
- 外部連携をする場合の通信経路や認証方式は安全か?
- ファイルの保存先やクラウドの契約形態に脆弱性がないか?
- プロジェクトの成果物が継続的に管理・保守される設計になっているか?
このような“「セキュリティレビュー」の習慣化“を提案することで、プロジェクトメンバーに「情シスはプロジェクトの味方であり、先を見通すナビゲーターである」という認識を持ってもらえるようになります。
③セキュリティを“業務の敵”にしない
現場の感覚として、「セキュリティ対応は面倒」「セキュリティ部門に相談するとプロジェクトが遅れる」といったネガティブな印象を持たれることもあります。
情シスとして大切なのは、”業務を止めないセキュリティ”という視点で、現場の業務内容を理解しながら、現実的かつリスクの少ない選択肢を提示することです。
例えば、 “止める”のではなく“変える提案をする”スタンスが、情シスと現場の関係性を強化することにつながります。
- 「この共有方法はリスクがあるので、社内限定リンク+アクセス制限で代替できます」
- 「このアプリを使う場合、契約形態によってセキュリティリスクが変わるので、使い方を一緒に整理しましょう」
④セキュリティ意識の醸成もプロジェクト成功のカギ
プロジェクトを通じて情シスが関与することは、単にセキュリティ上のチェックを行うだけでなく、現場メンバーにセキュリティ意識を自然に伝える機会にもなります。
下記のような対応を積み重ねることで、セキュリティが「一部の専門家のもの」ではなく「全員で守るもの」という意識に変わっていきます。
- 情報共有のルール作成を一緒に考える
- プロジェクトメンバー向けの簡易な情報セキュリティガイドを提供する
- 運用フェーズでの「やってはいけない例」を共有する
4.情報管理のサポートとガイドラインの提供
プロジェクトを成功に導くには、業務設計やシステム導入といった「仕組み」だけでなく、その過程で扱う「情報」が、正しく整理され、適切に管理されていることが前提となります。
特に昨今では、AIの活用が広がる中で、組織の情報管理の在り方が、業務の効率化だけでなく、組織の知的生産性そのものを左右する時代になっています。
プロジェクト単位であれ、部門単位であれ、扱う情報が整理されていなければ、必要な情報にアクセスできず、重複作業やミスが起きやすくなります。
さらに、AIを業務に組み込もうとしても、学習させる情報が整っていなければ、その力を十分に引き出すことができません。
こうした課題に対して、全社横断で情報インフラを管理する情シスは、プロジェクト推進における「情報の交通整理役」として、大きな支援力を発揮できる存在です。
①情報の“バラバラ管理”は、プロジェクトの失速を招く
現場では、業務上の資料やデータが部門ごとのやり方で保管されていることが多く、次のような問題がしばしば見られます。
このような状況では、プロジェクトが進むにつれて「情報の混乱」が表面化し、判断の遅れや手戻りを引き起こします。さらに、情報が整備されていなければ、AIによる検索や要約、レポート生成などの機能も正確に動作しません。
- ファイルの命名規則がバラバラで、検索しても見つからない
- 個人フォルダに重要な情報が閉じ込められ、共有されていない
- アクセス権限があいまいで、機密情報の漏えいリスクがある
②情報管理の“共通ルール”づくりをサポートする
そこで情シスが果たすべきは、プロジェクトチームや現場部門に対して、情報管理のベースとなるガイドラインを提示し、実運用に合わせたルール作りを支援することです。
基本ルールを情シスが支援することで、プロジェクトに関わる全メンバーが「迷わず情報を扱える」状態が生まれ、作業効率や品質が大きく向上します。
- ファイル命名規則、フォルダ構成、バージョン管理のルールを提案
- 保管場所(共有ドライブ、Teams、SharePoint など)の統一と使い分けの整備
- アクセス権限の設定ルールと更新フローの整備
- 文書の更新履歴やレビュー記録の取り扱い方法の策定
③AI時代に向けた“情報整備”は今こそ始めるべき投資
第7回のコラム
でも述べた通り、今後の業務はAIとの協働が前提になります。
AIは自ら情報を判断するのではなく、「与えられた情報をもとに最善の回答を提示する」ツールです。したがって、情報管理が不十分であれば、AIは誤った結論や、空回りするアウトプットしか返してくれません。 逆に言えば、情シスが中心となってプロジェクト内での情報管理レベルを引き上げることは、将来的にそのまま”「AI Readyな組織基盤」を構築する投資”になるのです。
5.成果の振り返りと改善のフィードバック
プロジェクトとは常に“挑戦”です。
業務改善、新ツール導入、仕組みの見直しなどは未知の取り組みであり、成功が保証されるものではありません。
だからこそ、成果を冷静に振り返り、学びを次に活かすことが非常に重要です。プロジェクトの終わりは、次の改善の始まりでもあります。
①成功も失敗も“検証”してこそ意味がある
プロジェクト終了後、成果の有無だけに注目し、過程や判断の背景を共有しないまま終わってしまうケースもあります。
しかし、たとえ目標未達でも「なぜそうなったのか」「何が足りなかったのか」を振り返ることで、次回に活かせる多くの気づきを得ることができます。
例えば、こうした経験は、次のプロジェクトで同じ失敗を繰り返さないための貴重な資産です。
- 現場の巻き込みが弱く、運用が定着しなかった
- 要件が曖昧なまま進み、手戻りが発生した
- セキュリティ要件が後回しとなり、リリース直前に修正を余儀なくされた
②情シスは“学びを蓄積し、活かす立場”
情シスは多部門・多テーマのプロジェクトに関わる立場にあり、各プロジェクトで得た知見を全社的に活かせるポジションにあります。
こうした“学び”を体系的に整理すれば、次のプロジェクトでの参考資料やガイドラインとして再活用できます。
- 業務要件の不明確さ、情報共有の混乱といった共通課題
- 成功プロジェクトに共通する要素(密な連携、段階的導入)
③フィードバックの“仕組み化”がカギ
振り返りは一度きりの「反省会」で終わらせず、次に活かす仕組みとして定着させることが重要です。
こうした活動によって、振り返りは「儀式」ではなく、学習のサイクルとして根づいていきます。
情シスが支援できる仕組み例は次のようなものがあります。
- 成果・課題・改善点を記録する「レビューシート」の運用
- 得られた教訓を標準手順やチェックリストに反映
- 社内ポータルやナレッジベースで事例を蓄積・検索可能にする体制整備
④情シスは“全社の学習促進エンジン”
プロジェクトの経験を次につなげる取り組みは、単なる改善にとどまらず、組織全体の学習能力そのものを高める活動です。そして、その中心にいるのが情シスです。
情シスがこれらの役割を担えば、プロジェクトは一過性の取り組みではなく、組織の成長を加速させる原動力へと進化します。
- 全社のプロジェクト状況を横断的に把握する
- 成功パターンや注意点を他部門に展開する
- プロジェクト知見をつなぐ“ナレッジのハブ”として機能する
6.まとめ
現場との共同プロジェクトは、情シスが「頼られる部門」から「変革を支えるパートナー」へと進化する絶好の機会です。
セキュリティや情報管理の専門性を活かしつつ、現場に寄り添い、安心して挑戦できる環境を整える。さらに、プロジェクトの振り返りを次に活かすサイクルを回すことで、全社の学習力と変革力を高める役割も果たせます。
これからの情シスには、全社横断の視点と、現場との対話力、そして成長を支援する意志が求められます。
協働を通じて価値を共創し、組織の未来をともに描いていく――そんな情シス像を、私たちは応援したいと考えています。
おわりに ~ご意見お聞かせください~
本コラムの主旨は単に情報やノウハウを伝えることではなく、読者の方からのフィードバックを受けて各テーマの解像度を高め、実践を積み上げていきたいというものです。
皆様の組織ではどのような課題を持っていますか、解決した事例はありますか。コラムの中で是非ご意見を紹介させてください。
▼是非こちらのフォームよりご意見、ご感想をお寄せください。▼
■著者紹介■
村松 真(むらまつ まこと)
出身:東京都稲城市
ひとこと:情シスの皆様に寄り添うコラムをお届けします
Microsoft Top Partner Engineer Award 2023年 受賞
エンジニアとしてのキャリアに加え、経営や組織開発、文書管理、Microsoft の製品知識、情報セキュリティなど幅広い視点で、中堅中小企業のお客様を支援。
大学に入学した1982年からコンピューターにさわりはじめ、社会人になってからはプログラマー、SE、開発管理などソフトウェア開発全般を経験しました。その後日本マイクロソフト社の有償サポートのマネージャを経てソフトクリエイト社に入社しました。
ソフトクリエイト入社後はサーバー構築やクライアントのドメイン移行や運用支援など、インフラ構築系案件のプロジェクトマネージャーとして経験を積んできました。
2019年に中小企業診断士の資格を取得し、コンピューターシステムだけではなく、経営視点や組織開発、文書管理、情報セキュリティなど様々な角度からお客様のソリューション支援を行っています。
長年情シスのお客様と接していて、頑張っているのになかなか報われない姿をみてどうやったら応援できるだろうかと考え続けてきました。
DXによる変革と、AI活用による業務変革がすべてのお客様に求められる現代において、情シスの価値が爆上がりするチャンスが到来しました。
この機を捉えてブレイクする情シスに寄り添うコラムをお届けしたいと思います。