舞台:株式会社トリリス精機
登場人物:相馬直哉(情報システム・実務担当)、三浦智子(情報企画部マネージャー)
AIが迷わないデータ管理とは?責任で回すデータマネジメント
9:05
情報企画部の朝は、一本のチャットから始まった。
「“取引区分C”の追加、承認どこですか?」
営業部からだった。
相馬は画面を見たまま、手を止める。
(またか……)
顧客マスターの「取引区分」。
A・Bに加えて「C」を追加する話が、いつの間にか現場で進み始めていた。
だが――
- 誰が決めたのか分からない
- どこで承認されたのか分からない
- システムには反映されていない
つまり、誰も“責任を持っていない変更”だった。
10:20
三浦の席の前。
「C区分、もう入力始まってます。」
相馬が言う。
「でも、定義がどこにもない。」
その日の午後、影響が一気に表面化した。
•在庫システム:エラー
•BI:集計不一致
•AI:旧定義を回答
どれも“壊れている”わけではない。
ただ、前提が揃っていないだけだった。
三浦が静かに言う。
「原因はシステムじゃない。」
少し間を置く。
「決め方がないの。」
15:00
関係部署を集めた打ち合わせ。
三浦はホワイトボードに一本の線を引いた。
決める人 / 回す人
「これを分けます。」
部屋が少しざわつく。
「“取引区分”のような定義は、現場では決めない。」
三浦は続ける。
「まず、データオーナーが決める。」
相馬が補足する。
「その後、情報企画で影響範囲を確認します。」
- マスター
- 各システム
- BI
- AI
「全部です。」
営業部長が腕を組む。
「じゃあ、現場は何をする?」
三浦が答える。
「回します。」
15:12
ホワイトボードに三つの役割が並ぶ。
- データオーナー(決める)
- 各部の文書管理担当(回す)
- 情報企画部(つなぐ)
相馬は画面を開く。
「AIも同じです。」
「承認済みの定義だけを読むようにします。」
三浦が続ける。
「状態が“公開”、かつオーナー承認済み。」
「それ以外は、読ませない。」
営業部長が小さくうなずく。
「……なるほど。」
17:10
社内チャットに新しいルールが流れる。
#お知らせ|データ定義変更のルール
・定義変更はデータオーナー承認必須
・情報企画部で影響確認
・承認済みのみ正本URLへ反映
・AIは公開状態のみ参照
反応はすぐに返ってきた。
営業:「これで迷わなくなります」
製造:「問い合わせ先が分かるの助かります」
総務:「誰に聞けばいいか明確になりました」
相馬は画面を見ながら思う。
(仕組みって……こういうことか)
18:08
エレベーター前。
相馬が言う。
「データ管理って、技術の話だと思ってました。」
三浦は少し笑った。
「違うわ。」
一拍置く。
「誰が責任を持つかの話。」
相馬はうなずく。
「境界線を引くって、そういうことなんですね。」
三浦が答える。
「そう。」
そして静かに言った。
「仕組みは、人の間に引いた線から生まれるの。」
解説編:データは「責任」で動く
1.なぜデータは混乱するのか
多くの企業で起きるデータの混乱は、技術的な問題ではありません。
その多くは、「誰が決めるのか」が曖昧なことに起因します。
今回のケースのように、データの定義が現場判断で変更されると、
- システムごとに前提がずれる
- 集計結果が一致しなくなる
- AIの回答が現場と食い違う
といった問題が発生します。
これはシステムの不具合ではなく、意思決定のルールが存在しないことが原因です。
データの定義は単なる項目ではなく、会社のルールそのものです。
したがって、その変更には本来「意思決定プロセス」が必要です。
2.「決める」と「回す」を分ける
データマネジメントの基本は、決定と運用を分離することです。
最低限、次の三つの役割を明確にする必要があります。
- データオーナー(決める)
定義や変更に対して最終責任を持つ - 各部の文書管理担当(回す)
日常業務でデータを扱い、運用する - 情報企画部(つなぐ)
システムやAIへの影響を確認し、全体を調整する
この役割分担が明確になることで、
- 勝手な変更が防止される
- 影響範囲を事前に把握できる
- 問い合わせ先が明確になる
といった効果が生まれます。
重要なのは、役割を増やすことではなく、責任の所在をはっきりさせることです。
3.属人化から仕組みへ
これまでの回で扱ってきた内容を振り返ると、
と、データそのものの整備を進めてきました。
しかし、それだけでは十分ではありません。
最終的に必要になるのは、
その運用を支える「仕組み」です。
その中心にあるのが、「責任」です。
- 誰が決めるのか
- 誰が更新するのか
- 誰が影響を確認するのか
この境界線が明確になることで、
データ管理は個人の努力ではなく、組織として回る仕組みになります。
また、生成AIの活用においても同様です。
AIに読み込ませるデータは、
4.まとめ
データマネジメントは、「整理」や「技術」の話ではありません。
それは、
- 誰が決めるのか
- 誰が回すのか
という、組織のルールを設計する活動です。
責任が曖昧なデータは、必ず混乱を生みます。
しかし、境界線を引けば、データは組織の資産として機能し始めます。
仕組みは、責任から生まれる。
それが、データマネジメントの出発点です。

本コラムの主旨は単に情報やノウハウを伝えることではなく、読者の方からのフィードバックを受けて各テーマの解像度を高め、実践を積み上げていきたいというものです。
皆様の組織ではどのような課題を持っていますか、解決した事例はありますか。コラムの中で是非ご意見を紹介させてください。
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■著者紹介■
村松 真(むらまつ まこと)
出身:東京都稲城市
ひとこと:情シスの皆様に寄り添うコラムをお届けします
Microsoft Top Partner Engineer Award 2023年 受賞
エンジニアとしてのキャリアに加え、経営や組織開発、文書管理、Microsoft の製品知識、情報セキュリティなど幅広い視点で、中堅中小企業のお客様を支援。

大学に入学した1982年からコンピューターにさわりはじめ、社会人になってからはプログラマー、SE、開発管理などソフトウェア開発全般を経験しました。その後日本マイクロソフト社の有償サポートのマネージャを経てソフトクリエイト社に入社しました。
ソフトクリエイト入社後はサーバー構築やクライアントのドメイン移行や運用支援など、インフラ構築系案件のプロジェクトマネージャーとして経験を積んできました。
2019年に中小企業診断士の資格を取得し、コンピューターシステムだけではなく、経営視点や組織開発、文書管理、情報セキュリティなど様々な角度からお客様のソリューション支援を行っています。
長年情シスのお客様と接していて、頑張っているのになかなか報われない姿をみてどうやったら応援できるだろうかと考え続けてきました。
DXによる変革と、AI活用による業務変革がすべてのお客様に求められる現代において、情シスの価値が爆上がりするチャンスが到来しました。
この機を捉えてブレイクする情シスに寄り添うコラムをお届けしたいと思います。




